ID番号 | : | 00115 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | ラジオ中国事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 期間を一年とする専属出演契約を毎年更新継続してきた放送芸能員が、期間の満了後更新はしないとの通告を受けたため、右契約は雇用契約である等として、従業員としての地位確認と賃金支払の仮処分を求めた事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法10条,21条 民法1条3項,629条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1967年2月21日 |
裁判所名 | : | 広島地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和39年 (ヨ) 414 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働民例集18巻1号88頁/時報482号67頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則―労働者―演奏楽団員〕 《証拠略》によれば、本件出演契約を締結した申請人ら芸能員は被申請人会社が定める前記芸能団出演規程に従わねばならないものであるところ、右規程によると、団員は会社の企画及び指示に従って放送番組等に出演し、出演に際しては会社の定めた指揮者の指揮に従うことが義務付けられている反面、専属契約料としてランクに従い昭和三八年当時月額二一、八〇〇円ないし三三、八〇〇円の固定給が保障され、右は病気欠勤の場合にも支給されることになっており、また団員は会社の事前許可を得なければ他社出演はできない旨定められている。右によれば、本件出演契約は仕事の完成を目的とする請負ないしこれに類似する契約とは認めがたく、被申請人と申請人らとの間にはいわゆる使用従属関係が認められ、報酬の支払は労務の給付そのものに対してなされ、またそれは生活給的要素を包含するものと認められるから、本件出演契約は雇傭契約であると認めるのが相当であり、申請人らは労働基準法、労働組合法等の保護を受ける労働者と認めるべきである。 〔解雇―解雇権の濫用〕 ところで、企業は、資本所有の自由が認められるのであるから、企業の合理化のためにその従業員を解雇することは、原則として許さるべきものであるが、右の解雇が企業の恣意に委ねられ、いたずらに労働者の失業による生活の不安をきたす如き場合は、公平の原則上、権利の濫用として無効と解するのが相当である。 そこで、右観点から本件解雇につき考えるのに、さきに認定したところによれば、被申請人会社は、芸能員の関与する自社制作番組に対する需要が近時とみに減少し、本件解雇前の現状のまま申請人らを雇傭することは不経済であるので、経営合理化の上から芸能員の人員整理の必要ありとして本件解雇に及んだものであり、また、解雇後の申請人らに対する援助として、被申請人が前示の如き提案をなしたものとみるべきであるところ、右提案の如く、申請人らが新たにプロダクション等を結成するのは労働者として必ずしも容易でなく、仮にそれが可能であるとしても相当の準備期間を必要とするのみならず、被申請人のなす援助も必ずしも具体的でなく、早急に実行可能のものともいいがたい程度のもので、右によって被解雇者の生活の不安が解消するものでなく、芸能員雇傭が不経済であるとの被申請人主張も、芸能員に対する人件費を、その関与による自社制作番組に対する収入との関連において損益計算したばあいのことにすぎぬもので、右の計算上の損失が冗費であって直ちに企業の損失といえるかは、放送事業の複雑な性格上、即断しがたく、かえって、申請人X本人尋問の結果により、被申請人は本件解雇後申請人らの組合に属していて本件解雇後組合を離脱した芸能員約一〇名のほかアルバイト等を使って自社番組を制作しており、《証拠略》によれば、被申請人会社は企業全体としては毎期相当の利益を上げ、民間放送事業会社の中でも高位の利益配当(昭和三七年度年一割五分)をなしておることが各疎明されることからすると、被申請人の右不経済性の主張は芸能員全員の即時解雇を合理化するに足るものとしては納得しがたいし、芸能員が不必要であるとの被申請人の主張も右説明したところにより全面的には採用しがたいところである。 以上によれば、被申請人に芸能員の人員整理をすべき必要のあることは否定できないが、整理の人員、時期は、前述の被解雇者の生活等の問題を考慮して合理的に定めるべきであるのに、本件解雇は右合理性を欠き芸能員全員を直ちに解雇すべき理由を見出しがたく、ことに《証拠略》によると、被申請人は本件雇傭契約を請負類似の契約であるとしこれを前提として、申請人らに対し更新拒絶の交渉をしたものであることが疎明できることからすると、被申請人は申請人らに対する人員整理をするには、申請人らとの契約が雇傭契約であることを前提とし、合理化の必要性を申請人らに説明した上その時期と方法を定めるのが前示の公平の原則にそうものというべきである。したがって、本件解雇は、仮処分により、解雇権濫用による無効のものとして取扱うのを相当とする。 |