全 情 報

ID番号 00122
事件名 雇用関係存在確認、未払賃金請求事件
いわゆる事件名 大多喜高校後援会事件
争点
事案概要  高校の実習助手の職名で採用され、購買部の販売業務・理科室助手の職務にある者が、解雇を通告されたので、高校後援会を被告として、右高校助手たる地位の確認、賃金支払を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法9条
民法623条,627条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 使用者の概念
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1974年1月30日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 502 
裁判結果 認容
出典 タイムズ310号317頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―使用者―使用者の概念〕
 これまでに見てきたように、A高等学校においては団費職員は従来から校長によって学校名或いは学校長名で採用されてきた一方、被告後援会の運営が全て校長に委任されてきた事実があり、他の団費職員B、Cの場合にはその給与が主として後援会により支弁されていたので、その採用形式は学校名でなされているが実質的には被告後援会から委任された権限に基いて校長が採用したとされ、雇用主体は被告後援会とされてきているのであって、それが原告の場合にだけ給与が専ら購買部の売上利益から支弁されている点で他の団費職員であるB、Cとは異なり、このことが原告の雇用関係を不明確なものとしているのであるが、右給与の支弁先を除けば採用手続、形式、給与の支払名義人は校長であること、校長の指導監督下で学校の雑務処理に当っている勤務の実態などの点においては原告と右B、Cとは全く異なるところがないと考えられる。そして被告後援会及び購買部のどちらが給与を支弁するかということは一応決められてはいるが、その区別は流動的であり、結局はどちらか資金に余裕のある方が給与を支弁する実情にあると推測されるから、(このことは既に認定したように被告後援会より給与を支弁されるべきB、Cに対しても購買部より厚生資金が支給されたことがあり、又、原告の解雇後購買部が後援会の事業とされるようになったことからも支持される。)給与の最終的な負担者の違いは原告と他の助手であるB、Cとの雇用関係を区別する要素とは考えられないから、原告をB、Cとは別個の雇用関係に立つ団費職員とみるのは妥当でなく原告とB、Cは同一の雇用関係にあるとみるのが相当である。従って原告は被告後援会の委任を受けた校長によって採用された団費職員でその雇用主体は被告後援会であると言わなければならない。
 3 被告は原告とA高校の関係は公法上の委託関係であり、校長は慣習法上原告のような民間人に学校の事務処理を委託する権限を有していたと主張するが、原告はA高校において最終的には校長の指揮命令に従って業務を遂行し、単に労働力を提供しているに過ぎないから原告の労働関係は雇用とみるのが相当である。もっとも、A高校は県立高校であるから本来学校教育上、学校に必要な人員の確保は県の教育の掌にある県教育委員会の責務であり、県の責任においてなされなければならないのであって、原告のようないわゆる団費職員をなくし、全て県の職員をもって学校事務を処理すべきであるにもかかわらず、旧制中学の時代から「助手」という名称の団費職員が存在し、既に長年月の間団費職員の存在は一つの慣行となって定着しており(県教育委員会も右団体職員の存在を黙認している)、団費職員は事実上の学校職員として県費職員と学校事務の処理上大差のないものとなっているので、場合によっては団費職員と総称されている職員中には直接県との雇用関係の存在を考慮する余地のある者も考えられるが、本件において原告の雇用主体は被告後援会とみるのが相当である。
 〔解雇―解雇権の濫用〕
 してみると結局原告を解雇すべき校務の都合の内容は判然としないばかりでなく、原告の後任と言うべき団費職員も採用されているのであるから、校務の都合上原告を解雇する必要性があったかどうかも疑わしいと言わなければならない。そして購買部の欠損については、原因が判然としないのであるから、(原告としては、生徒による盗難、釣り銭の誤り、鼠による損害、或いは付け落し位しか考えられないと言っており、昼休み時に生徒が集中する購買部において釣り銭の誤り、付け落し、生徒による盗難があったとしてもいちがいに原告のみを責めることは出来ないであろう。)原告に全て責任を負わせることは妥当でないばかりでなく、原告は責任を認めて昭和四三年九月から一二月迄毎月四、〇〇〇円、合計一六、〇〇〇円を弁済しているのであるから、右購買部の欠損発生を理由に原告を解雇することは権利の濫用として許されないと言わなければならない。結局本件解雇は原告を解雇するに足りる相当な理由なしになされたものであるから無効であり、原告は未だ被告後援会の雇用する「県立A高等学校助手」たる地位を有している。