ID番号 | : | 00124 |
事件名 | : | 地位保全金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 布施自動車教習所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 自動車教習所を営む会社が経営悪化を理由に事業所を閉鎖し従業員全員を解雇したうえで解散したところ、解雇された申請人らが右会社の親会社に対し雇用契約上の地位にあることを仮に定め、両会社連帯して賃金を支払う旨の仮処分を申請した事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法10条,2章 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社 |
裁判年月日 | : | 1982年7月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (ヨ) 4719 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 時報1058号129頁/タイムズ479号162頁/労働判例393号35頁/労経速報1135号7頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00136/大阪高/昭59. 3.30/昭和57年(ネ)1557号 |
評釈論文 | : | 下井隆史・判例評論291号56頁/菅野和夫・季刊実務民事法2号230頁 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則―使用者―法人格否認の法理と親子会社〕 一 まず、およそ社団に対する法人格の付与は、社会的に存在する団体が立法政策上これを権利主体として表現するに値すると認められるときに行われるものであるから、形式上独立の法人格を有する社団であっても、その法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはその法人格の濫用があるときには、法人格付与の目的に反するものとしてその法人格を否認することにより、特定の法律関係における相手方に妥当な救済を与えなければならない場合も生ずるものと解すべきである(最高裁判所昭和四四年二月二七日判決・民集二二巻二号五一一頁参照)。このいわゆる法人格否認の法理は、準則主義によって容易に設立することのできる株式会社についてその適用を考慮すべき場合が多く、現に本来は商取引の分野において形成されてきたものであるが、その一般条項的な性格に鑑みれば、これを商取引の分野においてのみ妥当するものと解する理由はなく、労働契約関係についても事案に応じて法人格否認の法理の適用をみるべき場合があるものと考えるべきである。 〔労基法の基本原則―使用者―法人格否認の法理と親子会社〕 二 ところで、法人格否認の法理の適用される第一の場合は、その法人格が全くの形骸に過ぎない場合であるところ、ここにいう法人格が全くの形骸にすぎない場合とは会社と社員間もしくは複数の会社間に実質的・経済的同一性が存し、会社が会社として独立して存在しているとは到底いいえない場合、すなわち、法人格否認の対象となる会社が実質的には完全な個人企業で会社としての実体を有していない場合あるいは従属会社が支配会社の単なる一営業部門にすぎないような場合をいうものと解される。 しかし、本件においては、被申請人Y1株式会社と被申請人Y2教習所との間に極めて密接な関係があるとはいうものの、もともと被申請人Y1株式会社はその事業部門を子会社として分離独立させて被申請人Y1株式会社を頂点とするY1株式会社グループともいうべき企業集団を形成し、自らは支配下にある関係会社の管理支配業務にあたってきており、被申請人Y2教習所も、主として自動車教習業務にあたらせるために独立の会社として設立しその支配下に置いたのである。そして、被申請人Y1株式会社と被申請人Y2教習所の財産は一応分離され、収支もそれぞれ別個に記載され、業務も区別されているのであって、両者の財産の帰属及び収支が区別し難い状態や両者の業務が混同される状態が継続した事実はなく、被申請人Y2教習所においては独自に株主総会及び取締役会を開催し、その意思決定及び業務の執行について法の要求する手続事項を遵守しているのであって、これらの事実に照らして考えると、被申請人Y2教習所が被申請人Y1株式会社の単なる一営業部門にすぎないもの、すなわち被申請人Y2教習所の法人格が全く形骸化していたものということはできない。 〔労基法の基本原則―使用者―法人格否認の法理と親子会社〕 三 次に、法人格否認の法理の適用をみる第二の場合、すなわち法人格の濫用を理由として会社の法人格を否認すべき場合には、その前提として、(イ)会社の背後の実体が会社を自己の意のままに「道具」として用いることができる支配的地位にあり(支配の要件)、且つ(ロ)背後の実体が会社形態を利用するにつき違法又は不当な目的を有していること(目的の要件)を要するものと解されるが右(ロ)にいう「目的」は、必ずしも否認されるべき会社の設立当初から存在する必要はなく、その設立後に中途からこれを有するに至った場合であっても、法人格否認の法理を適用することを妨げないものというべきである。 そして、右各要件を支配従属の関係にある親子会社における雇用関係に即していえば、支配会社において、従属会社が別法人であることを奇貨として、支配会社の利益のために従属会社の利益を害する結果をもたらすような不当な支配力の行使をしあるいは従属会社をして不当労働行為をさせ、もって従属会社の労働者の雇用契約上の権利を侵害したような場合も、法人格の濫用があったとして従属会社の法人格を否認し、従属会社と支配会社とを同一視して支配会社に対し雇用契約上の責任を問うことができるものとしなくてはならない。 被申請人Y1株式会社が被申請人Y2教習所にさせた布施分会に対する以上の一連の所為が不当労働行為に当ることは明らかであり、その結果申請人ら被申請人Y2教習所従業員の賃金債権の行使を困難にさせたのみならず、最終的には、被申請人Y2教習所を解散に至らしめ、これに伴う全員解雇により申請人らの従業員たる地位を失わさせたのであって、被申請人Y1株式会社は、被申請人Y2教習所が別法人であることを奇貨として、前記のように、支配力を不当に行使したものといわざるを得ない。 四 従って、本件においては、法人格の濫用があるものとして法人格否認の法理が適用されるべきであって、その結果、申請人らに対する関係では被申請人Y1株式会社は被申請人Y2教習所と同一視され、被申請人Y1株式会社は被申請人Y2教習所の申請人らに対する雇用契約上の責任と同一内容の責任を(不真正連帯の関係において)負うものと解すべきである。 |