全 情 報

ID番号 00135
事件名 地位保全仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 サガテレビ事件
争点
事案概要  業務委託契約に基づいて放送会社へ派遣され、放送会社の指揮監督下で就労していた従業員が、右業務委託契約の解除に伴い派遣元会社から解雇されたのに対し、派遣先会社との間の明示、黙示の労働契約の存在を主張して派遣先会社の従業員としての地位保全を求めた仮処分申請事件の控訴審。(原判決取消、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法10条,2章
職業安定法44条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 派遣先会社
裁判年月日 1983年6月7日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ネ) 592 
裁判結果 取消 棄却(確定)
出典 時報1084号126頁/タイムズ497号197頁/労働判例410号29頁/労経速報1156号3頁
審級関係 一審/03268/佐賀地/昭55. 9. 5/昭和50年(ヨ)44号
評釈論文 砂山克彦・労働判例414号16頁/菅野和夫・季刊実務民事法5号248頁/滝沢仁唱・日本労働法学会誌63号123頁/脇田滋・季刊労働法130号191頁
判決理由  しかし、労働契約といえども、もとより黙示の意思の合致によっても成立しうるものであるから、事業場内下請労働者(派遣労働者)の如く、外形上親企業(派遣先企業)の正規の従業員と殆んど差異のない形で労務を提供し、したがって、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、しかも、派遣元企業がそもそも企業としての独自性を有しないとか、企業としての独立性を欠いていて派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視しうるものである等その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ、派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認めうべき余地があることはいうまでもない。
 そこで、控訴人会社が本件四種業務及びタイプ印刷業務について業務委託契約を締結し事業場内下請労働者の派遣を受入れるに至った経緯、その派遣労働者の労働の実態、派遣元企業(業務受託企業)の性格、派遣労働者の賃金その他労働条件決定の経緯等について、以下検討を加える。
 (中 略)
 以上の認定事実に照らし考察するに、被控訴人らA会社従業員は、事業場内下請労働者として控訴人会社に派遣され、その作業の場所を控訴人会社社屋内と限定されて労務を提供していたのであるから、控訴人会社の職場秩序にしたがって労務提供をなすべき関係にあったばかりでなく、その各作業が控訴人会社の行う放送業務と密接不可分な連繋関係においてなさるべきところから、各作業内容につき控訴人会社社員から具体的な指示を受けることがあり、また作業上のミスについても控訴人会社の担当課長から直接注意を受けるなど控訴人会社から直接作業に関し指揮、監督を受けるようになっていたものであって(四種業務の現場責任者であるBの退職後も同人に代る現場責任者を特に選任することなく放置していたことからもこれを窺うことができる)(中 略)。
 控訴人会社との間にいわゆる使用従属関係が成立していたものであり、したがって、この使用従属関係の形成に伴い、控訴人会社が被控訴人らA会社従業員に対し、一定の使用者責任、例えば事業場内下請労働者に対する安全配慮義務等を課せられる関係にあったことは否定することができない。
 しかし、A会社は、控訴人会社から資本的にも人的にも全く独立した企業であって、控訴人会社からも被控訴人らからも実質上の契約主体として契約締結の相手方とされ、現に被控訴人ら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、身分上の監督を行っていたものであり、したがって、派遣先企業である控訴人会社の労務担当代行機関と同一視しうるような形式的、名目的な存在に過ぎなかったというのは当らない。
 また、他方、控訴人会社は、A会社が派遣労働者を採用する際にこれに介入することは全くなく、かつ、業務請負の対価として製帳社に支払っていた本件業務委託料は、派遣労働者の人数、労働時間量にかかわりなく、一定額(ただし、テレビプログラム原紙、日刊プロ、進行表の印刷業務については一枚当りの単価額による出来高払い)と約定していた(これらの金額がA会社従業員に支払われる賃金総額と直接関連するものとして算出決定されたことを窺わせる資料はない。)のであるから、控訴人会社が被控訴人ら派遣労働者の賃金額を実質上決定していたということは到底できない。したがって、控訴人会社と被控訴人ら派遣労働者との間に黙示の労働契約が締結されたものと認める根拠は見出し得ないというほかはない。