全 情 報

ID番号 00156
事件名 示談金等請求控訴事件
いわゆる事件名 串きゅう事件
争点
事案概要  クラブのホステスが採用時に受領した契約金、前借金の退職後の支払についての和解契約に基づいて、クラブ経営者が未払金額の支払を請求した事例。(原審 請求認容)
参照法条 労働基準法16条,17条
体系項目 労働契約(民事) / 賠償予定
労働契約(民事) / 前借金相殺
裁判年月日 1973年11月21日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 2504 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報726号99頁
審級関係 一審/東京地/昭47.10.16/昭和47年(ワ)6501号
評釈論文
判決理由  〔労働契約―賠償予定〕
 《証拠略》によれば、AがクラブBにホステスとして採用された契約金二〇万円は、同人が一年勤続すればその返済を免除される約定になっていたこと、右金員は、Aが前に勤めていた店の借金を返済するため借受けたものであることが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。以上の事実によれば、右契約金は、元来Aがその借金返済のため被控訴人から借受けたものであり、たゞ一年勤続すれば、褒賞的にその返済を免除されるというものであって、返済しなければ退職を認めないというものではないから、Aに対し労働を強制したりあるいは被控訴人に対するれい属を強いるものとも認め難いので、右契約金をもって労働基準法第一六条が禁止している違約金あるいは損害賠償額の予定に当るものということはできない。
 (三)してみれば、保証契約の無効を理由とする控訴人の抗弁はいずれも理由がないといわなければならない。
 〔労働契約―前借金相殺〕
 稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費貸借名義で交付された金員の返還請求は許されないけれども(最高裁判所昭和二八年(オ)第六二二号同三〇年一〇月七日第二小法廷判決)、労働基準法第一七条は、前借金を渡すこと自体を禁じているものではなく、前借金についての使用者の債権(前貸債権)で賃金に対する労働者の債権(賃金債権)を相殺することを禁じているにすぎないから、前記の如き事情の認め難い被控訴人と静乃との稼働契約関係においては、右契約を無効となしえないから、それが労働基準法の適用を受ける労働契約関係であるか否かを判断するまでもなく、前借金による消費貸借契約自体を無効ということはできない。