ID番号 | : | 00160 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 東箱根開発事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 一年間勤続した場合に支給される勤続奨励手当につき、希望者には手当の月割り額を前渡し、年次途中で退職する場合には当該年度中に前貸しされた勤続奨励手当を返還する旨の制度の効力が争われた事例。(一審 請求一部認容、 二審 控訴棄却、請求一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法5条,16条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 賠償予定 |
裁判年月日 | : | 1977年3月31日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ネ) 1801 昭和50年 (ネ) 2475 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 東高民時報28巻3号77頁/タイムズ355号337頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 控訴人は、自己にとって有用な社員を厚遇をもって獲得、確保する反面、あまり役に立たない、または意に沿わない社員は最小限の出捐をもって放逐するという雇用政策をたて、そのための手段として、上記のような勤続手当およびその月割額前貸の制度を採用したという面が存することを否定することができないのみか、むしろそれが主たる目的をなすものであり、さらにいえば、控訴人は、一方において社員が現実に入手しうる給付金額として前記合算額を提示することにより応募者の入社意思を固めさせるとともに、他方では退職させようとする者に対する関係では控訴人の実質負担額をできるだけ少ないものとすべく、そのための直截簡明な方法として期間中途退職者に対し既払賃金の一部の返還を約諾せしめることが労働基準法五条、一六条等の違反に問われるおそれがあることをおもんばかり、これを回避するために給与額の約半分に相当する金額についてこれを一年間の勤続を条件として支給される勤続奨励手当の月割額の前貸ということにして正規の給与分とあわせて支給するという本件給与方式を案出、採用したものと推認するのが相当である。 右勤続手当の月割額の交付をその額面どおりに一定期間勤続した者に対して給付されるべき報奨金の前渡しとみるのが事の実相に適合するものでないことは明らかであり、むしろそれは、実質的には正規の給与と同じく労務の対価として支払われるもの、その意味において賃金の一部たる実質をもち、前貸形式でされる右月割金額の給付は賃金の支払に相当するものとみるのが相当である(前記のように試用期間に相当する入社当初の三か月の期間について右月割金額が減ぜられているのも、この解釈の裏づけとなるといえる。)。そして右勤続手当の月割額の交付がこのような性質のものと解される以上、さらに進んで、被控訴人らは、控訴人に対し、雇用契約上(該契約の形式的文言にかかわらず)自己の給付した労務の対価として正規の給与に右月割給付金額を加えたものを請求する権利を有するものと解すべく、また、勤続期間一年未満で退職し、または解雇された場合にすでに給付を受けた賃金の一部である月割給付金相当額を控訴人に返還する旨の約定部分は無効で、被控訴人らはかかる返還義務を負うものではないと解すべきである。 けだし、実質賃金の一部を一定期間の勤続を条件として給付される勤続手当の前貸という形式で交付する前記給与方式は、さきにも指摘したように、勤続一年に満たない中途退職者(または被解雇者)に対しては賃金の一部を支給せず、またすでに支給した賃金の一部を返還する義務を負わしめるというのとその実質的内容を同じくするものであり、後者のような約定が、あるいは一定期間の就労を強制するもの、あるいは契約不履行に対する制裁約定であるとして、労働基準法五条または一六条に違反し、その効力を否定されるべきものである以上、前者の給与方式についても、上記のような解釈をとらない限り、結局において使用者が賃金の一部の支払義務をまぬかれ、労働基準法の右規定の趣旨を潜脱する結果となるのであって、その不当なことは明らかだからである。 |