全 情 報

ID番号 00181
事件名 地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 三菱樹脂事件
争点
事案概要  学生運動歴の秘匿を理由とする本採用拒否に対して、地位保全の仮処分申請がなされた事例。(認容)
参照法条 労働基準法3条,2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1964年4月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和38年 (ヨ) 2165 
裁判結果 認容
出典 労働民例集15巻2号383頁/時報374号60頁/法曹新聞194号2頁
審級関係
評釈論文 宮島尚史・季刊労働法54号73頁/宮島尚史・労働法学研究会報598号1頁/近藤富士雄・労働法令通信18巻1号20頁/高島良一・判例タイムズ161号214頁/山口浩一郎・判例評論72号37頁/松田保彦・ジュリスト352号110頁/正田彬・法学研究〔慶応大学〕37巻9号84頁/平野毅・労働経済旬報588号12頁
判決理由  以上にみた労働契約書提出時期についての建前と慣行、本採用に際しての辞令の形式、大学卒定期採用者の採用内定から本採用に至るまでの実情等を前記見習試用取扱規則の規定内容と照らし合せて考えてみると、少なくとも大学卒定期採用者については、新採用が決定して入社すると同時に試用に関する合意を付款とした本来の継続的雇傭契約が会社との間に成立したとみるのが相当である。即ち、所定の試用期間は会社においてその間新採用者の社員としての適格性を調査判断するために設けられたもので、新採用者を従業員として不適格と判断できる合理的事由が存在すれば、会社は右期間内でも本採用拒否を決定できると共に、試用期間(本件の場合正確に言えば「見習期間」が満了した月の末日まで。以下同様である。)が経過するまで本来の雇傭契約の効果の発生を停止する約定(さらに、試用期間の延長を相当とする合理的事由がある場合にこれを延長し得る旨の約定をも包合するが、この点は本件の焦点に関係がない。)について双方の合意があったものと解すべく、これを換言すれば、会社は申請人との間に本採用を不適格とする合理的事由の具備を要件とする試用期間内の解約権を留保すると共に、申請人が上記事由を具備することなしに、又はこれを具備しても右解約権を行使されることなしに試用期間を経過することを停止条件として、本採用の雇傭契約を締結したものであって、本件本採用拒否は右約定に基く停止条件付雇傭契約解約の意思表示にほかならないものと解されるから、もし右意思表示が上記約定の実質的要件を欠き無効である場合には、申請人は試用期間の経過と共に当然に本来の雇傭契約に基く本採用の社員たる地位を取得するものと言わなければならない。
 (中 略)
 2 次に面接試験における応答についてみるに、その際の問答の内容は前認定のように極めて簡単な具体性に乏しいものであって、問答に用いられた「学生運動」とか「興味をもたなかった」と言うような表現だけでは、それが具体的にいかなる行動や、どの程度の関心を意味するものか必ずしも判然としない。一方申請人が国立A大学川内分校に在学中の昭和三五年当時同分校学生自治会がいわゆる全学連の一翼として安保改定反対等の学生運動に関与し、また同年末の同自治会役員選挙に当り申請人が立候補者の推せん人の一人として名を連ねていることは認められるけれども、申請人が他に学生運動に従事し又はこれに特別の関心をもっていた事実を認めるに足りる疏明はない。
 面接試験における問答の態様と申請人の学生自治会関与の程度とが以上のとおりであるとすれば、申請人の面接試験における上記応答内容をもって申請人の不信性を表明したものと断ずるのは早計の譏りを免れないのみならず(採用志望者としていわゆる学生運動関与の事実が選考上不利に作用するものと憶測するのは自然の情であり、この点に関し進んで正確な回答を期待することは、むしろ酷とも言えよう。)、本件本採用拒否は前判示のとおり条件付雇傭契約の解約、即ち解雇の性質を有するものであることを考えるならば、仮に申請人の前記応答に多少事実と齟齬する点があったとしても、この一事をもって雇傭関係を継続し難いほどの不信性が表明されたものとはとうてい首肯し難く、本採用拒否の合理的理由とすることはできない。