全 情 報

ID番号 00193
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 上原製作所事件
争点
事案概要  試用期間三ケ月間を経過した従業員が、試用期間満了までに解雇権を行使されなかったから本採用従業員の地位を取得したとして、本採用従業員としての雇用契約上の権利を有することの確認、賃金、一時金の差額の支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 試用期間の長さ・延長
裁判年月日 1973年5月31日
裁判所名 長野地諏訪支
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 39 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ298号320頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―試用期間―法的性質〕
 右試用契約の法的性質について検討するのに、成立に争いのない(証拠略)によれば、被告の就業規則は「従業員に採用された者は、三か月間の試用期間を置く。試用期間中に従業員として不適当と認めた場合には採用を取消すことがある。」旨規定していること、被告会社には試用期間中の従業員に対し本採用になるための条件として、予め一定の合理的かつ客観的な労働能力に関する適格基準を定めた規定も試用期間を経て本採用となるについて本採用試験あるいは特段の適格検査等の措置を講ずる旨の規定も存しないこと、被告会社における試用期間は、従業員を予定した職務に就かせたうえ本採用の従業員としての労働能力と適格性を有するか否かを判定し、その結果によってはこれを解雇することができるという機能を営むものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
 以上の事実を総合すれば、右試用契約の法的性質は、従業員(試用者)として採用されることによって当初から期間の定めのない雇用契約が成立するが、被告は、試用期間内では従業員に不適格な事由があれば解雇することができるという解雇権を留保している契約というべく、従業員が右不適格の事由を具備せず、またはこれを具備しても解雇権を行使されない限り、試用期間の経過によって当然本採用の従業員の地位を取得するものと解するのが相当である。
 〔労働契約―試用期間―試用期間の長さ・延長〕
 右試用期間の延長の適否について判断するのに、試用期間の法的性質は、前叙のとおりであるから試用期間中の従業員の地位は不安定であるというべく、また、当初の試用期間そのものが従業員に対する労働能力と適格性の価値判断を行なううえに必要な合理的期間内に限られるというその本旨からくる制約に服する以上、試用期間の延長の適否は、従業員を不安定な地位に置くことを継続させるものであるからなお一層厳格に解されるべきであろう。
 成立に争いのない乙第七号証によれば、被告の就業規則中には「三か月間の試用期間は人物判定の都合上延長することがある。」旨の規定が存することを認めることができるが、ここに延長することがあるときは、右延長の許否を被告の一方的、恣意的判断に委ねる趣旨ではなく、それは、試用契約を締結した際に予見しえなかったような事情により適格性等の判断が適正になしえないという場合のごとく延長を必要とする合理的事由がなければ許されないことを意味すると解すべきである。
 (中 略)
 就業規則等に「試用期間満了日において期間延長の意思表示のなされない場合は、同一条件の試用が継続するものとする。」旨明規されていて、試用期間延長の意思表示の告知に関し労使間でその旨円満に合意されている場合は格別(もっとも右のごとくその旨明規されている場合であっても、その延長される期間等その規定内容いかんによっては、解雇保護規定の脱法行為ないしは公序良俗違反の観点から慎重な検討を要する場合もあろう。)その旨の規定を欠く場合には試用期間の延長の意思表示の告知を要するということは当然の前提とされているというべく、したがって、前叙のごとき被告における試用期間を延長する旨の決定は、いまだ被告会社の内部的決定すなわち被告会社における内部的意思表示の存在を意味するにすぎないから、これを当該従業員に告知しなければ外部的に成立し、有効なものとはならないと解すべきである。
 (中 略)
 以上述べたところから明らかなとおり、被告のこの点に関する主張は理由がなく、原告は、当初の試用期間を満了するにあたり、右期間を延長する旨の意思表示はもとより解雇する旨の意思表示も受けなかったことは明らかであるから、右期間を満了した翌日である昭和四六年一月一六日本採用の従業員の地位を取得したと解すべきである。
 (中 略)
 たとえ原告に被告が第二回目の延長の理由とした右(一)ないし(三)の事由が存在し、それが被告が評価したとおり解雇の事由に該当するものであるとしても、それは、昭和四六年四月三〇日満了する試用期間をさらに相当な期間延長することを認める合理的理由になり得るとしても、期限を定めずに期間を延長する理由とはなりえず、期間を定めずになす試用期間の延長は、畢竟何回にもわたる延長を認めることにひとしく、解雇保護規定の趣旨から到底許されないところであり、右期限を定めずになされた延長は、相当な期間を超える限度において無効というべきである。
 そこで、右相当な期間を検討するのに、被告が主張する右(一)ないし(三)のごとき事由がすべて存在することを前提として考えても、その期間は、就業規則に定められた当初の試用期間三か月間を限度とみるのが相当である。
 したがって、被告のなした期限を定めずになした延長は、第一回の延長期間が満了する昭和四六年四月三〇日から三か月間を超える限度において無効というべく、また、右三か月間の満了日である同年七月三一日までに解雇の意思表示等なんらの意思表示がなされなかったことは明らかであるから、原告は、遅くとも右期間の経過とともに同年八月一日本採用の従業員の地位を取得したというべきである。