ID番号 | : | 00205 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三洋海運事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 三ケ月の試用期間を定めて雇用された港湾荷役作業員が、大学中退の秘匿、職歴詐称、高校時代の処分歴の秘匿を理由に右試用期間約一ケ月目に解雇されたのに対し、右解雇は解雇権の濫用にあたり無効である等として右解雇の無効確認等求めた事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法21条 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質 |
裁判年月日 | : | 1984年3月31日 |
裁判所名 | : | 福島地いわき支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ワ) 123 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 時報1120号133頁/労働判例429号22頁/労経速報1193号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約―試用期間―法的性質〕 一般に、使用者が労働者を採用するに当って履歴書等を提出させその経歴を申告させるのは労働者の資質、能力等を評価し、当該企業の採用基準に合致するかどうかを判定する際の資料とする等のためのものであるから、労働者が使用者の行う採用試験を受けるに当り、使用者側から調査、判定の資料を求められた場合には、できる限り真実の事項を明らかにして信頼形成に誤りないように留意すべきであり、このことは労働契約を締結しようとする労働者に課せられた信義則上の義務というべく、従って、労働者が自己の経歴について虚偽の事実を申述したり、申述すべき事項を秘匿することは重大な信義則違反行為であり信頼に値しない者であるとの人物評価を受けることは当然である。しかしながら、これを理由としてその者の作業職員としての適格性を否定するためには、右秘匿等にかかる事実の内容、秘匿等の程度及びその動機、理由等に照らして、右の秘匿等の所為がその者の人物評価に及ぼす影響の程度を参酌したうえ、それが客観的にみて、その者の作業職員としての適格性を否定するに足りる合理的な理由として是認される場合でなければならない。これを本件についてみるに、被告の主張にかかる経歴詐称についても、原告に秘匿等の事実があったかどうか、秘匿等にかかる事実の内容、態様及び程度ならびに秘匿等の動機、理由等のほか、これらの事実関係に照らして、原告の秘匿等の行為及び秘匿等にかかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に及ぼす影響の程度、さらにそれが被告の採否決定につき有する意義と重要性等を総合勘案し、それが被告において留保解約権に基づき原告を解雇しうる客観的に合理的な理由となるかどうかを判断しなければならない。 そこで以下、本件経歴詐称が右の場合に該当するかどうかについて検討する。 (中 略) 本件において原告は、前示のとおり、五社に及ぶ転職のうち三社についての職歴を秘匿しているけれども、いずれも二箇月ないし六箇月程度の短期間でしかも臨時的なものもあり(原告はそのことの故に履歴書に記載する必要はないものと考えたというのであり、秘匿の動機についても一応宥恕されるべき点もないわけではない。)、かかる職歴を秘したことが、原告の港湾荷役作業職員としての資質、能力の評価に関する重要な経歴を詐称したものというに足りず、従って、原告の前記職歴の詐称自体はそれのみでは解雇の理由とはなり得ないものというべきである。 (中 略) これを要するに、原告の処分歴の詐称又はこれにより秘匿された高校生当時の抗議活動や思想傾向は、前記認定・説示の諸事情に照らすと、原告の港湾荷役作業職員としての能力や適格性を否定する資料とするに足りないものというべきである。 そうだとすれば、被告が原告の解雇理由として主張する職歴及び処分歴詐称の事実は、各独立には解雇理由となり得ないものであり、また、被告の主張する解雇理由を総合して考えても、原告が被告会社における港湾荷役作業職員としての能力、適性を欠くものということはできない。 以上によれば、被告の主張にかかる原告の経歴詐称は、被告会社の作業職員就業規則二七条三項の解雇事由には該当せず、したがって、留保解約権の行使が許されないのになされた本件解雇は無効なものというべきである。 〔労働契約―試用時間―法的性質〕 そこで、右見習期間(以下、試用期間ともいう。)中の労働契約の性質について検討する。 一般に、使用者が労働者を雇傭するに際して一定期間の試用期間をおく趣旨は、採否決定の当初においてはその者の資質、性格、能力その他業務適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い適切な判定資料を蒐集することが十分にできないため、その後における調査や観察に基づき、右事項を判断し、これらを欠くと認める者を企業から排除することができるようにすることにあるものと解せられるところ、前記1の事実に照らせば、原被告間に締結された本件契約も試用期間中に被告において、原告の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項を調査し、これらを欠くと認めるときは解雇できる旨の解約権が留保された期間の定めのない労働契約であるということができる。 |