ID番号 | : | 00206 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 大森精工機事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | いわゆる成田事件に関し、逮捕、勾留され、凶器準備集合罪等で起訴されていることを採用面接時に秘匿したとして解雇された原告が地位保全、賃金支払の各仮処分を求めた事例(一部認容)。 |
参照法条 | : | 労働基準法21条 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1985年1月30日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ヨ) 2282 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 労働民例集36巻1号15頁/時報1144号148頁/タイムズ565号137頁/労働判例446号15頁/労経速報1213号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-試用期間-法的性質〕 右の事実によると、就業規則の定めでは、債務者会社に採用された者は、直ちに三か月の試用期間に入り、その間に不適格として解雇されなかった者は、本採用となるものとされており、債務者会社の主張する試用期間前のアルバイト制度というものは就業規則に根拠を有しないものであるといわなければならないところ、このような制度は、債務者会社の主張によると、その間の労働者の勤務の状態その他の事情から従業員として不適格と判断したときは採用しないというものであって、試用期間の制度とその趣旨、目的を共通にし、かつ、労働者の地位を不安定にするものであるから、そのような制度の有効性を認めるには、試用期間のほかにアルバイト期間を置く特段の必要性がなければならないと解すべきところ、そのような特段の必要性を認めるに足りる証拠はない。 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕 雇用契約は、使用者と労働者との相互の信頼関係を基盤とする継続的契約関係であるから、労働者は契約の締結に際し、自己の経歴等労働力の評価に関する重要な事項を使用者に告知すべき義務を信義則上負うことがあるものと解される。そして、使用者としては雇用しようとする労働者の経歴についてできる限り多くの事項を知りたいと考えるのも無理からぬところである。しかし、そうであるからといって、雇用契約の趣旨に照らし信義則上必要かつ合理的と認められる範囲を超えてまで労働者にその経歴の告知を求めることは、労働者の個人的領域への侵害として許されないこともいうまでもない。労働者の経歴について、右の必要かつ合理的と認められる範囲は、使用者の事業の内容、当該労働者の予定された職務の内容等を総合勘案して、使用者の事業に対する社会的信用、労働者の労働力の評価に影響を及ぼすべき事項に限定されると解すべきであろう。 前記一の1及び2で認定したように、債務者会社の事業内容は航空機に関連する備品、器材の修理、分解整備を主たる業務とし、民間航空会社や防衛庁等の注文により業務を行っており、債権者は航空機のタイヤの修理の仕事に従事することが予定されていたものである。ところで、債権者がこれに関係して逮捕、勾留、起訴されたいわゆる成田事件は、前記のように成田空港の開港に反対する闘争に関して発生したものであるから、これにより逮捕、勾留、起訴されたことが債務者会社の事業の内容に関係がないとはいえないことは明らかである。しかし、右の闘争に参加した者が直ちに航空機産業の存在や業務自体に反対する思想を有し、そのための行動に出るものであるということにはならないし、その旨の疎明もない。更に、債権者は公共職業安定所の求人票により債務者会社に応募し、債務者会社工場の一作業員となることが予定されていたにすぎないのであるから、債権者が成田事件により逮捕、勾留、起訴されたことが債権者の労働力の評価とは直接関連を有するものでないことは明らかであり、また、債務者会社の事業の特殊性を十分考慮しても、債権者がその従業員の一員であることが直ちに会社の信用を傷つけ顧客の信頼を損うことにつながるものとはいえない。 そうであるとすれば、債権者は雇用契約の締結に際し、成田事件に関連して逮捕、勾留、起訴されたことを債務者会社に告知すべき義務を負っていたということはできないから、これを秘匿したこと自体をもって解雇の理由とすることはできない。 |