全 情 報

ID番号 00212
事件名 身分確認請求事件
いわゆる事件名 茂原市役所事件
争点
事案概要  職場結婚した市職員はどちらかが退職する旨の誓約書に基づいて依願退職処分に付された市職員が、右処分は憲法一四条、二四条、地公法一三条に違反し無効であるとして職員としての地位の確認を求めた事例。(請求認容)
参照法条 日本国憲法14条,24条
地方公務員法13条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 結婚・出産退職制
退職 / 合意解約
退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
裁判年月日 1968年5月20日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (行ウ) 4 
裁判結果
出典 行裁例集19巻5号860頁/時報518号24頁/タイムズ221号109頁
審級関係
評釈論文 永岡董且・地方公務員月報65号54頁/花見忠・判例評論115号44頁/市毛景吉・月刊労働問題124号116頁
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―結婚・出産退職制〕
 〔退職―合意解約〕
 原告が退職を承諾したのは、前述の如く、誓約書を提出した以上、退職要求に応じなければならないものと考えたからであって、(二)に認定の事実と《証拠略》を総合すれば、原告ら夫婦は、誓約書が同人らを拘束する効力を有しないことを知っていたならば、退職を承諾しなかったことが認められる。そして、原告らが右誓約により拘束されるものと信じたことは、退職承諾の意思表示の動機の錯誤ではあるが、被告は原告が誓約書を提出したことをたてにとって退職を迫り、原告は右の如く誤信したためこれに応じたのであるから、右錯誤は右意思表示の内容をなすものというべく、その態様からみて、それは要素の錯誤に当ると解するを相当とし、証人Aの証言によれば、被告は誓約書が有効なものでないことを知りながら、退職勧告をしたことが認められるので、右承諾は無効であるといわざるをえない。
 〔退職―退職願―退職願と錯誤〕
 右結婚退職制は、職場内結婚をした夫婦の一方を強制的に退職させるものではなく、退職を勧告して辞職させる趣旨のものではあるが、かかる制度の下において、前記の如き誓約書を徴された職員にとって、それは、職場内結婚即退職の重圧となり、事実上配偶者の選択、結婚の時期等に関する自由の制約となる。したがって、職場内結婚をした者に対し、誓約書を提出したことを理由に辞職を迫ることは、結婚の自由の制限になるといわざるをえない。ところで、結婚の自由は憲法により国が国民に対して保障した基本的人権の一つであり、地方公共団体である被告は、憲法の保障した人権を尊重する義務があり、合理的な理由なく制限することは法律上禁止されているものと解すべく、この理は特別権力関係にある公務員に対する関係においても異らないことは、地方公務員法第一三条の規定からも言い得るところである。
 被告は、人事管理の必要上結婚退職制を実施したのである。と主張し、共稼ぎ夫婦が同じ部屋で勤務することにより、執務上若干好ましからざる影響を及ぼしたことは、前認定の事実から推測し得られるが、それは、職場環境の整備、管理者の指導監督の強化によって改善し得る程度のものであって、夫婦の一方をやめさせなければ是正し得ないものではないことが、証人Aの証言からも窺えるのである。ところが、被告が、かかる改善の手段方法を講じたことを認めるべき証拠はなく、他に被告の結婚退職制を是認し得る合理的理由は発見できず、また原告ら夫婦が他の共稼ぎ夫婦より特に職場の秩序を乱し、(中 略)。
 あるいは勤務成績が劣っていたことを認めるに足る証拠もない。それにも拘らず、被告が幾組かの共稼ぎ夫婦のうち、原告ら夫婦に対してだけ再三強硬に退職を要求して辞職を承諾させ、他の共稼ぎの職員に対しては、懇談的に退職を話しかけた程度であること、および原告以外の退職者三人はいずれも課長の妻である(同人らは夫が課長であるところから、被告の意を汲んで自発的に辞職したものであることが窺われる。)ことにかんがみれば、被告の原告に対する退職勧告は、原告が前記誓約書を提出したことを唯一の理由としてなしたものであることが明らかであり、本件免職処分は結婚の自由を侵すものというべきである。