ID番号 | : | 00216 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 三井造船事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 協約の定めに従い結婚退職したが引続き第一子出産までとの定めにより雇用延長されていた女子従業員が、第一子出産により雇用契約の更新を拒否されたのに対し、右協約の定めはいずれも性別による差別待遇にあたり無効であるとして地位保全等求めた仮処分申請事件。(申請認容) |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法90条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 結婚・出産退職制 |
裁判年月日 | : | 1971年12月10日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和44年 (ヨ) 1571 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働民例集22巻6号1163頁/時報654号29頁/タイムズ271号147頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 手塚和彰・ジュリスト523号145頁/西谷敏・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕87頁 |
判決理由 | : | 本件結婚退職制は男女の性別による差別待遇であり、且つ結婚の自由を制約するものであるから、何らかの合理的な理由が発見し得ない限り、結婚退職制を定める本件協約並びに申請人と会社との間の雇用契約は民法第九〇条の公の秩序に違反するものとして無効であるというべきである。よって、以下本件結婚退職制の合理的理由の存否について検討する。 (中 略) (1)結婚により作業能率が低下する等会社の期待する労務の提供が困難になるという特殊な事情も認められない。 (中 略) (2)造船業界においては時間外労働が多いという特殊事情があるところ、既婚女子従業員は時間外労働に従事せしめることが困難であることから、業務に支障をきたす旨主張する。しかし、本件全疎明資料をもってしても、造船業界においては他の業界に比べて時間外労働が多いことを首肯するに足りる資料はない。 (3)被申請人会社は事務補助業務は高等学校卒業後数年間の清新溌剌とした時期にこそ最適でそれ以降は高令化するとともに、事務補助業務に対する熱意を失い不適格性が増大するという。しかしながら、本件結婚退職制は女子従業員の高令化の故をもって退職させる制度ではなく、中高等学校卒業後数年間に満たない時期に結婚しても、なお退職理由となるものであるのに反し、高令化しても結婚さえしなければ退職理由とならないものであるから、結婚退職制の合理的理由となるものではない。 (中 略) (4)会社が本件結婚退職制の合理的理由として、同法第六五条、第六八条の母性の保護規定の存在を挙げることは不当なものと断ぜざるを得ない。 (中 略) (5)最後に、会社は女子従業員についても男子従業員と同様年功序列型賃金体系を採用しているから、以上主張の如く結婚或いは高令化と共に業務不適格性が増大するにも拘らず、賃金のみ高額になっていくと主張するが、(中 略)。 年功型賃金体系の不合理の故をもって短絡的に女子従業員の退職制度と結びつけるのはあまりに安易に過ぎるもので、女子従業員の結婚退職制を合理付けうるものではない。 (中 略) そうすると、本件結婚退職制は何ら合理的理由なくして女子従業員を性別を理由として差別待遇をなし、結婚の自由を制約するものであり、雇用延長制の存在によって右不合理性を是正するに足りるものではないから、本件協約並びに申請人と会社との間の雇用契約中、結婚を退職事由とする部分は性別による差別待遇の禁止並びに結婚の自由の保障という公の秩序に反し無効であるといわなければならない。したがって、会社が申請人の結婚した昭和四三年二月五日、申請人を一旦退職せしめた後雇用延長制を適用して一年間の期間の定めのある従業員として取り扱ったことおよび昭和四四年二月四日雇用延長期間満了につき雇用契約を更新しなかったことは、いずれも結婚退職制が有効であることを前提とした不当なものであり、申請人は依然として会社の雇用期間の定めのない常用従業員たる地位を有するものである。 |