全 情 報

ID番号 00219
事件名 雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 日産自動車事件
争点
事案概要  人員整理の対象とされ解雇された従業員らが、雇用契約存在確認、損害賠償を請求した事例。なお、本訴提起後、会社の営業譲渡、吸収合併を経て、原告従業員らに被告会社の男女別定年制が適用されるに至った。(請求一部認容)
参照法条 日本国憲法14条
労働基準法3条,4条
民法90条,709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別定年制
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1973年3月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (ワ) 481 
裁判結果 一部認容 一部棄却(控訴)
出典 時報698号36頁/タイムズ291号168頁
審級関係 上告審/00227/最高三小/昭56. 3.24/昭和54年(オ)750号
評釈論文 横井芳弘・労働判例174号23頁/小西国友・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕46頁/水野勝・労働法律旬報834号43頁/島田信義・労働法律旬報832号35頁
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―男女別定年制〕
 憲法第一四条は法の基本原理ともいうべき法の下の平等について規定し、これを受けて労働基準法第三条は国籍、信条または社会的身分を理由とする労働条件についての差別を禁止し、同法第四条は性別を理由とする賃金についての差別を禁止している。もっとも、同法第三条は性別を理由とする労働条件についての差別については規定していないし、同法第四条も性別を理由とする賃金以外の労働条件についての差別については規定していない。このように、同法第三条および第四条は、その規定の仕方においては、性別を理由とする賃金以外の労働条件についての差別を直接禁止の対象とするものではない。しかし、同法第三条が性別を理由とする労働条件についての差別を直接禁止の対象としなかったのは、女子の労働条件を男子のそれと機械的に同一に取り扱うことから生ずる不合理を除去するために、同法第一九条、第六一条ないし第六八条等に女子についての特別の保護規定が設けられていることによるものと解され、また、同法第四条が性別を理由とする賃金についての差別のみを禁止の対象にしているのは、賃金について性別による差別から生ずる弊害がわが国において従来特に著しかったので、これを同法第一一九条第一号の罰則規定と相まって禁止しようとしたためであると解される。そうすると、同法第三条および第四条が、性別を理由とする賃金以外の労働条件についての合理的理由のない差別を許容する趣旨のものとは解されない。このことと憲法第一四条第一項が法の下における性別による差別取扱いを禁止している精神に鑑みれば、性別のみを理由として、労働条件について、合理的理由のないのに男女を差別して取り扱ってはならないことは、公の秩序として確立しているものと解すべきである。したがって、合理的理由のない男女の差別的取扱いを定めた就業規則の規定は、民法第九〇条に違反し無効であるというべきである。
 一般に、定年制なるものは、高年令で労働能力の低下した従業員を若年の従業員に代えることにより作業能率の維持、向上をはかるとともに、人事の停滞や勤労意欲の減退を防ぎ、あるいは人件費の上昇を押える等種々の目的ないし理由により設けられる。したがって、被告の就業規則第五七条第一項が定める男女差別取扱いの合理性を検証するためには、このような定年制を設ける目的ないし理由からみて、右規定に合理性があるかどうかを検討しなければならない。そのためには、被告の企業形態、業務内容、賃金体系、従業員の労働能力等をみる必要がある。
 (中 略)
 以上のとおりであって、労働科学的にも、賃金体系との関係においても、また巷間の定年制の例に徴する等しても、被告の就業規則第五七条第一項が男子従業員と女子従業員の定年年令に五年の差を設けていることにつき、これを合理的ならしめる理由を見出すことは、ついにできない。企業が就業規則において、男女別の定年制の規定を設けている場合には、その差別の合理性の立証責任は、右規定の有効なることを主張する者にあるから、同条同項のうち女子従業員の定年に関する部分は、合理的理由もなく、不利益に女子従業員を差別するものとして、民法第九〇条に違反し無効である。したがって、右規定が同原告に適用になるとしても、同原告と被告との雇用契約は、前記解雇の予告によっては終了しない。
 〔解雇-解雇権の濫用〕 右認定の事実によれば、原告X1は、違法な解雇処分を受け、一時就労を拒否され、仮処分決定によってその解雇処分が違法にして無効であることが一応確定され、職場に復帰したものの、被告会社の偏見に災いされ、数々の不当な差別待遇を受けてきたのである。およそ労働者は、同一条件で同等の労務に服する限り、使用者から他の労働者より不当に不利益な差別待遇を受けない法律上の利益を有する。被告会社のした同原告に対する前記差別待遇は、この法律上の利益を侵害するものである。したがって、本件解雇処分および右差別待遇は不法行為を構成する。そして、同原告は、これによって甚大なる精神的苦痛を被ったものと認められるから、これを慰藉するためには、前認定の一切の事情等を考慮し、金一、○○○、○○○円をもってするのが相当であると認める。                            〔解雇―整理解雇―整理解雇基準〕
 これによれば、右の人員整理自体は、荻窪工場の経営維持の必要からなされたものとして、合理的な理由に基づくものと認められる。
 被整理者の人選についてみると、《証拠略》によれば、まず整理予定人員数を整理後の配置転換等を考慮して各課各職場に割り当てたうえ、各課各職場ごとに所属従業員の勤務成績につき前認定の整理基準に対応する九項目にわたって考課を行なうとともに、整理基準該当性について検討し、これをもとに序列を付し、そのうえで序列低位者を割当人員数に達するまで解雇することにしたこと、右の考課項目は、1技能、2作業に対する努力、3勤怠、4業務に対する協力性、5職場における重要度、6応用力、7職場規律、8健康状態、9総評であり(以下考課項目は頭書の番号によって特定し、その番号をもって表示することがある。)、考課項目についての評価は丙を普通として甲乙丙丁戊の五段階によりなされ、考課の対象とされた勤務成績は主として昭和二四年四月ころから同年九月ころまでの間におけるものであるが、それ以前のものも考慮されたこと、そして原告X2を除くその余の原告ら八名については別表(五)考課項目についての評価欄記載のとおりの考課がなされ、別表(三)該当整理基準の番号欄記載の整理基準に該当するものとされ、別表(五)序列欄記載のような低位の序列が付されて、解雇を相当とするとされるに至ったものであることが認められる。
 企業規模の縮小による人員整理は、経営効率に寄与する程度の低い者を余剰人員として解雇しようとするものであることは、資本主義的経済社会においては、承認しなければならない基準である。整理基準1ないし7がその基準であることは事柄の性質上明らかで、これに該当するときは、結論として、その者は経営効率に寄与する程度が低いといわなければならない。それに、整理基準10は、同1ないし7の結論と解すると余り意味がないから、むしろそれらに直接該当するとされるような事由はないが、これに準ずる事由があって、なお経営効率に寄与する程度が低いとみられるような場合について設けられた補充的な基準と解される。しかし、整理基準8、9は、その内容からして、一定の職種、職場において余剰人員であるとされた従業員に対するものと解されるので、それ自体としては経営効率に寄与する程度の低い余剰人員であるかどうかを判断する独立の基準たり得ない。むしろ、整理基準1ないし10が並列的に掲げられているにもかかわらず、同8および9は特定の従業員が整理基準1ないし7または10に該当するとされた場合においても、なおその者の他の職種への適性および他の職場の欠員の有無という点から再検討して、その従業員の解雇の要否を具体的に判断する際に考慮されるべき事項と解される。しかし、本件人員整理は、整理予定人員数を整理後の配置転換等をも考慮して各課各職場に割り当てたうえでなされているのである。そうすると、このような企業規模の全体的縮小による人員整理において整理基準1ないし7または10に該当すると認められるときは、特にこれに反する事情の認められない限り、配置転換も困難で、与えるべき適当な職もないとされても致し方ないといわなければならない。
 (中 略)
 いわゆる整理解雇の場合、使用者が整理基準を設定した場合は、その整理基準に該当する者だけを解雇するという趣旨で、解雇権を自ら制限したものと解される。したがって、この整理基準に該当しない解雇は、それ自体無効である。以上によれば、原告X3、同X4および同X1は、被告の設定した整理基準のいずれにも該当しないのであるから、同原告らに対する本件解雇は、この点において既に無効である。
 (注)
 整理基準1(工場秩序を乱す者)
 整理基準2(会社業務に協力せざる者)
 整理基準3(職務怠慢なる者)
 整理基準4(技能低位なる者)
 整理基準5(事故欠勤多き者)
 整理基準8(配置転換困難なる者)
 整理基準9(業務縮小のため適当な職なき者)
 整理基準10(その他経営効率に寄与する程度の低い者)
 〔解雇―解雇権の濫用〕
 右認定の事実によれば、原告X1は、違法な解雇処分を受け、一時就労を拒否され、仮処分決定によってその解雇処分が違法にして無効であることが一応確定され、職場に復帰したものの、被告会社の偏見に災いされ、数々の不当な差別待遇を受けてきたのである。およそ労働者は、同一条件で同等の労務に服する限り、使用者から他の労働者より不当に不利益な差別待遇を受けない法律上の利益を有する。被告会社のした同原告に対する前記差別待遇は、この法律上の利益を侵害するものである。したがって、本件解雇処分および右差別待遇は不法行為を構成する。そして、同原告は、これによって甚大なる精神的苦痛を被ったものと認められるから、これを慰藉するためには、前認定の一切の事情等を考慮し、金一、〇〇〇、〇〇〇円をもってするのが相当であると認める。