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ID番号 00221
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 名古屋放送事件
争点
事案概要  放送会社の女子事務員につき三〇歳定年制を定める就業規則は、民法九〇条の公序良俗に反し無効とした事例。
参照法条 日本国憲法14条
労働基準法3条,4条
民法90条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 女子若年定年制
裁判年月日 1974年9月30日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 227 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集25巻6号461頁/時報756号56頁
審級関係 一審/03568/名古屋地/昭48. 4.27/昭和47年(ワ)1452号
評釈論文 西村昭ほか・労働法律旬報871号48頁
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-女性若年定年制〕
 憲法一四条は、基本的人権として法の下における平等を宣言し、性別を理由とする差別的取扱いを禁止している。そして同条の規定を受けて制定された労基法四条は労働者が女子であることを理由とする賃金についての差別的取扱いを禁止し、また同法三条は労働者の国籍、信条または社会的身分を理由とする賃金、労働時間その他の労働条件についての差別的取扱いを禁止している。しかし、労基法は賃金以外の労働条件については性別を理由とする差別的取扱いを禁止する規定を設けておらず、同法一一九条は同法三条、四条に違反する使用者に対する罰則を定めているのであるから、罪刑法定主義の原則からして、右法条を拡張して解釈することは許されないと解するのが相当である。そして、同法三条は「性別」を理由とする差別については規定せず、また同法四条は「賃金」についてのみ規定するにすぎないところからみると、同法は、性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止の対象とはしていないものといわなければならない。
 ところで、憲法一四条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国または公共団体の統治行動に対して個人の自由と平等を保障する目的に出たもので、もっぱら国または公共団体と個人との間の関係を規律するものであり、私人相互の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではないし、性別を理由とする差別的取扱いの禁止も、男女間に存する自然的・肉体的条件の相違に応じた合理的な差別をも否定するものではないから、使用者と労働者との間の関係において、性別を理由とする差別的取扱いを是認する規範(就業規則)が存する場合においても、それだけで、これがただちに憲法一四条・民法九〇条により無効となるものということはできない。
 しかしながら、本件のような就業規則による定年退職制は、労働者が所定の年齢に達したことを理由として、自動的に(本件の場合はこれにあたる。)または解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度であるから、退職に関する労働条件であることが明らかであるところ、本件女子定年制が男子の五五才に対して、女子は三〇才と著しく低いものであり、かつ、三〇才以上の女子であるということから、当然に労働者としての適格性を失い、企業に対する貢献度が低くなるということは考えられないところからみると、女子労働者に対してのみ不利な退職基準であるというほかはない。しかも、右定年制が女子の能力・業務に対する適格性その他の諸条件を一切顧慮することなくたんに女子であることのみを理由として定立されているのみならず、賃金により生活を維持している女子労働者に対して労働契約の終了という重大なる事態を惹起するものであることを考えると、他にこの差別の合理性を理由づけるに足る特段の事情の存しない限り、社会的に許容しうる限界を超えた著しく不合理な性別による差別であるといわなければならない。しかして、憲法を頂点とするわが国の法秩序は両性の本質的平等を実現するため性別を理由とする合理的のない差別を禁止することを志向しているものであって、憲法一四条は国または公共団体と私人との間の関係につき、民法一条ノ二は私人相互間の関係につき、それぞれ右根本原理を顕示しており、右のごとき差別の禁止は公の秩序の内容を構成しているものというべきである。従って、前記のごとき著しく不合理な性別による差別は民法九〇条により公序違反として無効と解すべきものである。
 (中 略)
 以上のとおり、本件女子定年制に合理性ありとする控訴人の主張はいずれも理由がない。してみると、本件女子定年制は、さきに説示したとおり、女子従業員をそれが女子であることのみを理由として、五五才定年制を有する男子従業員に比し著しく差別するものというべく、社会的に許容し得る限界を超えた著しく、不合理な性別による差別であるから、右定年制を定めた控訴会社の就業規則の規定は民法九〇条により無効であるといわざるを得ない。