ID番号 | : | 00228 |
事件名 | : | 従業員たる地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 放射線影響研究所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 男子六二歳、女子五七歳の定年制を定めた就業規則規定の適用を受けて退職扱いとされた職員が、右定年制は性別による差別にあたり、憲法一四条、民法九〇条の公序良俗に反し無効であるとして雇用契約上の権利を有する地位の確認等求めた事例。(通勤手当の支払請求のみ棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法3条 日本国憲法14条 民法90条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別定年制 |
裁判年月日 | : | 1984年1月31日 |
裁判所名 | : | 広島地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和58年 (ワ) 238 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労経速報1179号7頁/労働判例425号27頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西国友・季刊実務民事法7号228頁 |
判決理由 | : | 本件定年制は定年年齢を男子六二歳、女子五七歳とし、比較的高年齢で男子と女子との間に五歳の年齢差を設けたものであるが、被告の事業の遂行上右差を設ける必要性を欠き、右差別しなければならない合理的理由が認められないときは、被告の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(最高裁判所昭和五六年三月二四日第三小法廷判決・民集三五巻二号三〇〇頁参照)。 (中 略) 1 厚生年金保険法四二条によれば、老齢年金の受給資格年齢は男子六〇歳、女子五五歳とされており、本件定年制は右各年齢を上回るが、右老齢年金は労働者が老齢により労働能力を喪失した老後の生活を保障するためのものであるから、労働者が働く意思と能力を有し、企業がそれを受け入れることが可能であるとき、右老齢年金が支給されることを理由に労働者を定年退職させることは右法律の目的にそわないうえ、たとえ右年金が支給されるとしても、その金額は企業に雇用され支給されていた給与よりも大幅に減額されたものとなり、退職は本人に多大の不利益を与えることは明らかであるから、現行の厚生年金保険法上老齢年金の女子の受給資格年齢が五五歳になっていることは本件男女別定年制の合理的理由とはなりえない。 組合が同意し、原告も本件定年差別を知りながら被告に採用されたとしても、雇用契約の内容が公序良俗に反すれば無効となるのであるから、右同意等は本件男女別定年制の合理的理由とはならない。 被告の主張する各法律の条項が憲法一四条に違反するか否かと本件男女別定年制の合理性の有無とは関連性がない。 その他被告は定年年齢を男女別に定めなければならない必要性について何ら主張しない。《証拠略》によれば、被告は昭和五〇年四月一日原爆傷害調査委員会が改組され、放射線の人に及ぼす医学的影響等を調査研究等をすることを目的とする財団法人として設立され、本件定年制は右原爆傷害調査委員会とその組合が昭和三八年四月一日に協定して定めたものを被告が引き継ぎそのまま就業規則に規定したものであるが、右委員会と組合が昭和三八年に右定年制を協定した経緯は、右委員会は組合に対し当初男女とも五五歳の定年制を提案したが、当時高年齢の職員が多く、少しでも定年を遅くしたいとする組合の強い要望があり、交渉の結果男子六二歳、女子五七歳とすることに合意したものであり、右委員会の事業の遂行上男女間に右差を設ける必要性があったものではなかったこと、被告は本件男女別定年制を是正するため現在組合に対し男女とも六〇歳の定年制を提案していることが認められるのであり、被告の事業の遂行上定年年齢において女子を差別しなければならない必要性はないといえる。 以上によれば、本件男女別定年制に合理的理由は認められない。 |