全 情 報

ID番号 00247
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 動労静岡鉄道管理局事件
争点
事案概要  国鉄静岡鉄道管理局が安全教育および安全意識の育成を目的として実施した青年研修会につき、組合(動労)の指令を受けて、研修会の実施日に年休を請求して参加を拒否した国鉄職員四〇名に対してなされた賃金カットの効力が争われた事例。(一審 請求棄却、 二審 控訴棄却、請求棄却)
参照法条 労働基準法39条4項,2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1977年1月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 1446 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集28巻1・2合併号1頁/東高民時報28巻1号2頁
審級関係 一審/静岡地/昭48. 5.29/昭和42年(ワ)506号
評釈論文
判決理由 〔労働契約―労働契約上の権利義務―業務命令〕
 およそ使用者が、その雇用する労働者との間の労働契約に基づき、当該労働者が労働力の自由処分を許諾した範囲内において、業務命令をもってその業務に関する一定の指示命令をなし得ることはいうまでもないところである。
 そして、右業務に関する指示命令には、直接現在の担当業務の遂行に関する事項、現在の業務遂行のために必要な規則、規程等の修得、または技術、技能それ自体およびその向上に必要とされる教育訓練、研修等への参加、労働者の労働力を良質化し、向上させるための研修参加等をも含むものと解するのが相当である。もっとも、このことは企業等の要請のままに人間開発、人格形成をなす義務までを労働者に課することを意味するものでないことはいうまでもないから、専ら人格陶冶を目的とする教養教育などは一般的には業務命令をもってその受講を命じ得ないものというべきである。
 ところで日本国有鉄道が、公共企業体として行う事業である鉄道輸送に際し、高度の安全を確保しなければならないことはいうまでもないところであり、その職員もまた業務の遂行にあたり安全の確保のために万全を期さなければならないことは職務上の義務というべきである(〈証拠略〉、日本国有鉄道就業規則第五条の二参照。)。したがって、国鉄職員の場合には、安全に関する教育啓蒙のための研修を受けることも業務遂行に直接必要なものとして当然に労働契約の内容に包含されるものと解することが相当である。
 しかして、本件研修会の目的および内容は前認定のように、職員管理規程に定められた職場内教育の一環として、安全意識の涵養、規律ある共同生活の体験等を目的として行われたものであるから、職員に対し業務命令をもってこれに参加することを命じ得るものと認めるのが相当である。もっとも、研修会が、控訴人ら主張のようにレクリエーション的な色彩を帯びていたこともまた前認定のところから否定できないところであるが、主たる目的が前示のとおりである以上その内容においてスポーツ・演芸等のレクリエーション的な要素を含むものであったとしても、これをもって直ちに業務命令をもって命じ得る研修の範囲を逸脱したものということはできない。
 したがって、研修会への参加を命じた被控訴人の業務命令は適法であり、この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
〔年休―時季変更権〕
 そこで、被控訴人のした右時季変更権の行使が有効であるかどうかについて判断するに、労働基準法第三九条第三項但書により使用者が時季変更権を行使し得るためには、年休の請求が当該労働者の所属する事業場における事業の正常な運営を妨げる場合であることが客観的に明らかであることを要するところ、右事業には当該事業場の通常の業務それ自体は勿論、事業遂行上必要とされる直接間接の業務をも含むものと解するのが相当であり、鉄道輸送を主たる事業とする被控訴人において、その安全の確保を目的として職員に対して行う安全研修等の職場内教育もまた被控訴人の事業の遂行上必要な業務というべく、したがって、控訴人ら所属の事業場である機関区、運転所、電車区の業務が、控訴人ら主張のとおり定められていることは被控訴人の明らかに争わないところではあるが、右各事業場がその業務の遂行上必要とされる安全研修に所属職員を参加させることも当然その事業場における事業に該るものとみるのが相当である。
 そして、当該事業場において、特定の職員を指名して右安全研修に参加させることは、当該職員をして非代替的な業務の遂行を命じたものであって、かような非代替的な業務の遂行を命じられた者をして研修に参加させることそれ自体が事業場における事業の正常な運営を図ることにほかならないから、控訴人らが、本件研修会に参加すべきことを命ぜられた日に年休を請求することは、客観的に所属事業場における事業の正常な運営を妨げる場合に該るものとして、被控訴人において時季変更権を行使することを許されるものと認めるのが相当である。
 したがって、被控訴人が前示年休を請求した控訴人らに対してなした時季変更権の行使は有効であり、右控訴人らのした年休の請求はその効力を生じなかったものというべく、それにもかかわらず、右控訴人らは年休であるとして研修会にも参加しなかったのであるから、その賃金を減額した被控訴人の措置は適法であり、同控訴人らの本訴請求は理由がない。
〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 しかしながら、労働基準法第三九条第一、二項に定める年次有給休暇は、これをいかなる目的に利用するかはもっぱら労働者の自由に委ねられているところであってその行使が、争議の目的達成の意図をもって同盟罷業等の手段としてなされ、もはや年休請求というに値しないような場合であれば格別、前示のように単に研修参加を命ぜられた各所属の事業所を異にする一部特定の労働者が各個別に研修参加を拒むための手段として年休請求権を行使したに過ぎない本件においては、かりに右年休請求が組合の掲げる争議目的の達成に合致するものであるとしても、これを年休に名を藉りた争議行為であると評価し、この故に年休請求を無効ならしめるものとすることは相当ではなく、したがって、またこのことを目して権利の濫用ということもできないから、この点に関する被控訴人の主張はいずれもこれを採用し得ない。