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ID番号 00254
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 電々公社帯広局事件
争点
事案概要  頚肩腕症候群総合精密検診の受診を命じた業務命令に従わなかったこと及び右問題にかかわる団交の場に押しかけその間無断で職場を離脱したことを理由に戒告処分に付された原告が右処分の無効確認を求めた事例。(認容)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 受診義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1982年3月24日
裁判所名 釧路地帯広支
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 199 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例385号41頁/労経速報1122号3頁/訟務月報28巻7号1384頁
審級関係 上告審/00261/最高一小/昭61. 3.13/昭和58年(オ)1408号
評釈論文 伊藤博義・労働判例386号4頁/金田茂・昭和57年行政関係判例解説230頁/保原喜志夫・ジュリスト788号110頁
判決理由  〔労働契約―労働契約上の権利義務―受診義務〕
 3 本件総合精密検診は、前認定のとおり疾病要因を追究し、その結果によって治療及び正しい療養の指導を行い、早期健康回復を図ることを目的として労使間の協約に基づいて実施されるものであるから労働安全衛生法六六条一項ないし四項所定の健康診断とはその目的を異にするものと解される。したがって、同法の条項を根拠にして原告に受診の義務を認めることはできない。
 しかし、頚肩腕症候群対策、り患者対策として被告の講じた措置が万全であったかどうかはともかく、前記のとおり被告としては一応の措置を講じ、その結果り患者数の減少をみているし、長期り患者である原告に対しても、長期にわたって労務軽減等の措置を講じていることも当事者間に争いのないところであって(その詳細は被告の主張一の1の(一)の(1)、(2)及び一の1の(三)の(1)、(2)のとおりである。)、これらの事情を考慮すると、被告が疾病要因を追究し、その結果によって治療及び正しい療養の指導を行い、早期健康回復を図ることを目的として、本件の総合精密検診を実施するについて、原告において特に加重な負担を伴うものでない限り、これに協力すべき信義則上の義務があると認めて不当とも考えられない。しかるところ本件総合精密検診の実施については、労使間の協約が存することは前記のとおりであって、本件総合精密検診の実施が右労働契約の実行たる側面をも有することは明白であるところ、右協約締結に至る前認定の経緯のほか、原告が長期にわたって受けた労務軽減等の措置の内容等に照らすと、二週間にわたりA病院に入院して受診すべきことをもって直ちに原告に加重な負担を強いるものということはできない。
 〔労働契約―労働契約上の権利義務―受診義務〕
 本件総合精密検診がレントゲン線照射や採血などの肉体的侵しゅう、苦痛を伴うものであることが抽象的、一般的には判っていたのであるから、本件検診に協力すべき義務が信義則上認められるものであるにすぎない以上、抽象的、一般的ではあるにせよ、当時判っていた範囲内でこれら肉体的侵しゅう、苦痛を伴うものであることを告知あるいは説明するのでなければ、業務命令としてその受診を命じ、これを強制することはできないといわなければならない。
 これを本件についてみるに、被告が原告に対して業務命令として本件総合精密検診の受診を命じるに当たり、検診項目を告知しなかったことは被告の自認するところであるが、被告としては、本件検診が全国でも最初の試みであることに思いを至し、原告の不安や危惧を解消して検診が円滑に実施されるよう努力すべきであったと考えられる。ところが、被告は、具体的検診項目については、抽象的、一般的に考えられるものについてさえ告知せず、しかも、二回目の業務命令を発する前には、原告から現実に検診項目を教えて欲しい旨の要求があったのに、これに応じないまま業務命令を発したものである。
 本件総合精密検診は前記のとおりり患者の早期健康回復を図ることを目的とするものであるから、この検診についても医師選択の自由が存するとの原告の主張については、当裁判所は疑問なしとしないのであるが、その点はともかく、右のように被告において原告の要求にもかかわらず、検診項目を明らかにしなかった一事をもって、その受診を命じる本件業務命令は無効と断じざるを得ない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕
 1 日本電信電話公社法三三条は、職員に懲戒に付すべき事由(処分事由)があるときは職員に対し懲戒処分を行うことができる旨規定しているが、懲戒権者が懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするとしていかなる処分を選択すべきかを決するかについては何ら具体的に定めていない。したがって懲戒権者は、処分事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該職員の右行為の前後における態度、処分歴、選択する処分の軽重等諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、懲戒処分をするとしていかなる処分を選択すべきかを決定することができると考えられるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から職場の事情に通暁し、部下職員の指導監督の任に当たる者の裁量に委ねるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。したがって、被告の職員につき、同法に定められた懲戒に付すべき事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うとしていかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
 2 これを本件についてみるに、本件処分の理由となる原告の非違行為は、前記認定のとおり一〇分間にわたり職場を離脱して職務を放棄したというものであるが、(中 略)。
 原告の職務放棄の態様は、右のように不当、不法な行為に及んだというものではなく、原告は、その六日前に第一回目の業務命令を受けてその翌日にこれを拒否したものであるが、右団体交渉は、業務命令発出の問題をめぐって最初に開催される団体交渉で、しかもこの業務命令に対する原告の疑問も相当の根拠があったといえるので業務命令を拒否した当の本人である原告がこれに関心をも持ち、これを傍聴したいと考えるのは極めて当然で、このことは原告のために酌むべき事情として考慮しなければならないと考える。
 (中 略)
 原告が昭和五四年四月一日の定期昇給において昇給標準額三五〇〇円の四分の一に相当する八七五円を減額されるとの効果を伴う本件処分は、社会観念上著しく妥当を欠いたものといわざるを得ず、懲戒権を濫用したものとして、違法たるを免れない。本件処分は、無効というべきである。