全 情 報

ID番号 00255
事件名 懲戒処分無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 電電公社帯広局事件
争点
事案概要  業務上の頚肩腕症候群と認定されていた電電公社職員が、二週間程度の入院を要する総合精密検査を受けるべき旨の業務命令を拒否したこと等を理由に戒告処分を受けたのに対し、右処分の無効確認を求めた事件の控訴審。(控訴棄却、労働者勝訴)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 受診義務
裁判年月日 1983年8月25日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ネ) 107 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集34巻4号629頁/時報1097号119頁/労経速報1162号5頁/労働判例415号39頁/訟務月報30巻3号432頁
審級関係 上告審/00261/最高一小/昭61. 3.13/昭和58年(オ)1408号
評釈論文 諏訪康雄・判例評論308号50頁/辻村昌昭・労働判例422号4頁/筧康生・昭和58年行政関係判例解説156頁
判決理由  公社(控訴人。以下同じ。)の職員は、公社に対し、職務専念義務のほか、法令及び公社の定める業務上の規程あるいはこれらにもとづく業務上の命令に従うべき義務を負つているところ、本件検診は、いわゆる業務上の疾病である頚肩腕症候群の長期罹患者等を対象として、疾病要因を追求し、その診断により治療及び療養の指導をして早期回復を図ることを目的として実施されるものであることは前記のとおりであるので、これは公社が職員に対して負つているいわゆる健康配慮義務を尽すための施策として行われるものと評価することができ、その限りにおいて、本件検診の実施は公社の業務に属するものとみることができる。
 しかしながら他面、公社職員は、公社に対して前記のごとき義務は負つているけれども、包括的にその支配に服するものではないところ、公社がその健康配慮義務を尽すために行う施策が、職員に対して疾病につき診察、治療の医療行為を受けさせることをその内容とする場合には、当該職員の自由権(医療行為については、原則として、これを受ける者に、自己の信任する医師を選択する自由があるとともに、予めその医療行為の内容につき説明を受けたうえで、これを受診するか否かを選択する自由があり、かつこのことは、その医療行為が診察を目的とするものか、治療を目的とするものかにより、決定的な差異はないものと解される。)を害するおそれがあり、しかも右の健康配慮義務は、あくまで公社が職員に対し、その健康の維持ないし増悪防止のため負担する義務にもとづくものであつて、その義務履行のための施策を受容することを当該職員が拒否した場合においては、その拒否によつて公社がその義務を尽くすことができなくなる限度においてかつそれに応じて公社はその義務違反の責任の全部又は一部を免れるものと解されるから、これらの諸点を考え合わせると、公社は、たとえ右の健康配慮義務を尽すための施策であつても、それが職員に対して疾病につき医療行為を受けさせるものである場合には、その内容が前記自由権の尊重につき考慮を払つたものでない限り、あるいは他にその自由権を制約するについて合理的な理由のない限りは、職員に対し、その施策の受容を承諾なくして強制することは許されないというべきである。