全 情 報

ID番号 00273
事件名 地位保全仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 日産自動車事件
争点
事案概要  会社合併後病気休職した電話交換手が、復職後、「配属に関しては新たにこれを決定する」旨の就業規則に基づき事務職への配転命令を受けたのに対し、本人の同意のない異種業務への配転は労働契約上なし得ない等として電話交換手としての地位保全等求めた仮処分申請事件。(地位保全のみ認容)
参照法条 労働基準法2章,106条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
就業規則(民事) / 就業規則の周知
裁判年月日 1970年3月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ヨ) 2252 
裁判結果 一部認容
出典 時報605号91頁/タイムズ251号231頁
審級関係
評釈論文 山本吉人・判例評論143号33頁
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕
 休職規程第八条に「休職者が前条の規定により復職した場合には、その配属に関しては新たにこれを決定する」と規定されていることが認められる。しかし、同規定の文理からは、当然に、復職者を労働契約の内容となっている職種と異なる業務に従事させることができる権限までを会社に与えた趣旨に同規定を解釈することはできず、また、疎明上そのように解釈するに足りる資料も見当らない。
 (中 略)
 なるほど、被申請人主張のように、休職者を除外した新たな業務体制の確立、または、病気休職の場合、復職者の健康上不適当ということにより、復職者を休職前の業務に就かせえない事態が生ずることのありうることは首肯できるとはいえ、同一職種の範囲をこえて担当業務の変更を要する事態がそうやたらと生起するはずもなく、そのような特別の場合は、職種の変更について復職者の同意を得ることは容易と考えられるのであって、休職規定第八条の規定を職種の変更を含む配転権限を認めたものと解釈しなければならない必然性があるとはいいえない。
 (中 略)
 さらに、たとえ、休職規程第八条を右のような配転権限を会社に与えた規定と解釈すべきものとしても、その権限は無限定に認められるものではなく、自ら被申請人主張のようなその必要性が肯定される合理的な範囲に限られるとともに、その行使の具体的事情によっては、権利の濫用としてその効力が否定される場合のあることはいうまでもない。
 (中 略)
 以上のように、本件配転は業務上の必要性も申請人の健康上からくる必要性も格別ないのに、一定の資格を要する、高度のもので、ないとはいえ、一種の技能労働者として申請人の有する利益に対し配慮することなく(会社はその主張する障害が消滅する将来の時点においても、申請人の希望につき配慮することを頑なに拒んでいる)、出されたもので、不当に右利益を侵害し、かつ、その発令の過程においても誠意を欠くものというべきである。
 そのような本件配転命令は、前記説示の配転権限の認められる合理的範囲を逸脱するもの、そういえないとしても、その権限を濫用するものとして、爾余の点を判断するまでもなく、無効というのほかない。
 〔就業規則―就業規則の周知〕
 就業規則は、法的規範としての性格を有し、これが適用される事業所の従業員一般に対する周知方法が講じられたとき、その効力を生ずるものと解するのを相当とするが、右認定事実よりすれば、申請人の所属する三鷹工場の従業員一般に対する右社則類の周知方法は昭和四一年八月二〇日頃講じられたものと認めるのを相当とし、そのときすでに、申請人は休職規程の適用を受けるに至ったものというべきである。