ID番号 | : | 00291 |
事件名 | : | 配転処分効力停止仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 徳山曹達事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 徳山工場から東京支店への転勤を命じられた従業員が、配転命令の効力停止の仮処分を申請した事例。(申請認容) |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 |
裁判年月日 | : | 1976年2月9日 |
裁判所名 | : | 山口地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和46年 (ヨ) 15 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例252号63頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 債権者と債務者会社との間の本件労働契約において、将来の勤務場所について特段の合意がなされたことについては、これを認め得る資料がなく、《証拠略》によれば、債務者会社と債権者が加入しているA労働組合との間に締結されている労働協約四四条一項には「会社は業務の都合により組合員に……転任を命ずることがある。」とあり、また、債務者会社の就業規則八条には「会社の都合で人事の異動を行なうことがある。この場合正当な理由なしでこれを拒むことはできない。」と定められているから、右労働協約と就業規則の趣旨に照らし、本件労働契約においては、債権者は、債務者に対し、業務上の必要により、勤務場所の変更を伴う配置転換を行う権限を委ねたものと解すべきである。 しかしながら、一般に、労働契約において、給付の目的たる労務は、労働者の人格と切り離すことのできないものであり、継続的な債権債務の関係であることに鑑み、また、勤務場所は、労働者の生活の本拠と密接不可分の関係にあり、重要な労働条件でもあるから、使用者は、たとえ、右のような権限に基づいて、業務上の必要により、労働者に転勤を命ずる場合であっても、常に無制約に許されるものと解すべきではない。殊に、労働者が長年同一場所に勤務して相当の成績をあげているとき、その勤務場所を遠隔地に変更する場合には、使用者としては、客観的に余人をもって代え難い場合でない限り、当該労働者の同意を得る必要があると解するのを相当とする。 (中 略) 債権者は、昭和二九年三月入社以来、本件配転に至るまで、一貫して徳山市の債務者会社本社に勤務し、研究部研究員、薬品課係員、検査課係員としての業務経験を積み、特に資料の調査、整理等にすぐれた能力を認められていること、そして、本件配転問題以外に、債務者会社の業務の運営上、特に債権者を他の職場に移さなければならない必要は認められないこと、しかも、本件配転による債権者の担当業務が必ずしも同人でなければならないほど特種なものと思われないこと、本件配転による転勤場所が東京のような遠隔地であること、そして、本件配転によれば、債権者としては、妻に養母の世話をさせるため、夫婦が別居を余儀なくされ、精神上ならびに経済上顕著な不利益を蒙ることが認められる。このような場合には、債務者は、本件配転について債権者の同意を得なければならないものと解する。 しかるに、疎明資料によれば、債権者は、事実上、本件転勤命令に応じて赴任し、その職場に従事してすでに数年を経過したことがうかがわれるけれども、本件配転に対しては、当初から異議を留め、その後も機会ある毎に本件配転の不当を訴え続けていることは明らかである。なるほど、債務者は、本件配転にあたって債権者のため種々配慮するところがあったとはいうものの、本件配転について、事前に債権者の意向を尋ねるようなことがなく、債務者側においては、すでに決定済のこととして、専ら、一方的に説得に当ったことが疎明され、未だに債権者の同意を得るに至らない以上、結局、本件転勤命令は、債務者の人事権の濫用として無効であるといわなければならない。 |