ID番号 | : | 00302 |
事件名 | : | 従業員等地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 品川工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 元請会社構内の出張所から下請会社工場への配転命令に直ちに応じなかったことを理由としてなされた始末書提出命令を拒否したとして解雇された下請会社従業員が、出張所における下請会社従業員としての地位の保全を求めた仮処分申請。(申請認容) |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1978年3月17日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ヨ) 3170 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例298号66頁/労経速報988号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕 申請人は被申請人会社に入社するに際しては直接A出張所に赴いて責任者のBと面談し、Bから報告を受けた被申請人会社は申請人の採用を了解するというかたちで、労働契約が成立しているが、右は極めて簡単な採用手続であって、採用に際して被申請人会社本社の人事担当者又はBが、申請人に対し、Aにおける作業内容、就業時間、賃金等最小必要限度の説明をした以上に、被申請人会社の本社及び各事業所の業態、将来本社又は他の出張所等への配転がありうることを口頭であれ文書をもってであれ説明したと認められる疎明資料はない(使用者に就業場所についての説明義務があることにつき労働基準法施行規則五条一号参照)。他方、申請人が本社へではなく、Aへ出向いて採用方を申入れたこと、本件配転を指示された際申請人がBやC専務に対して、自分はA内工場を就業場所として採用されたものであるからAで働かせてくれ、と言って配転を拒否したことを考え合わせると、申請人は当初からA出張所を就業場所とする労働契約の申込をし、被申請人会社はこれを応諾した、と解することができる。尤も、申請人の入社後でかつ前記組合結成日の二日後である昭和五一年三月一九日、Bの同意書を添付して阿部野労働基準監督署へ変更が届出られたA出張所に適用される被申請人会社就業規則第五二条は、勤務場所について「原則としてA株式会社構内とする。但し、A株式会社及びD株式会社の作業内容、作業量等によりD株式会社本社工場及び出張所に出向配属することがある。」と規定していることが認められるが、これは、昭和三九年一月二四日守口労働基準監督署に届出られかつその後変更手続を経ていないと思われる被申請人会の本社に適用される就業規則に、勤務場所に関する特段の条項が見当らない(たゞし他事業場での出張工事があることを前提とする規定はある)ことに照して、昭和五一年三月の規則変更に際して附加された条項であることが窺われるうえ、仮に右就業規則の効力自体に問題がないとしても、申請人と被申請人間の労働契約において、就労場所が、さきにみたとおり、A構内と特定されていると解すべきときは、右就業規則の定めにかかわらず、申請人の同意を得ないで配転することはできないと解さなければならない。 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕 以上の考察によれば、本件申請人に対する配転命令は労働契約に反し、また合理的理由を欠き人事権の濫用として無効と解するほかない。のみならず、被申請人会社もその構成員であるE協同組合が、A内でも過激な運動を展開していたF労働組合A分会の指導と援助の下に組合が結成されたことに強い衝撃を受け、A内の反分会勢力と一体となって、組合結成以降組合つぶしのための策動をしたことは、さきにみた組合結成以降の事実関係に照して明らかであり、本件配転に至るまでに申請人に対して加えられたBあるいは他の下請事業者らの組合脱退勧奨の背後にも被申請人会社の働きかけがあったと推量され、被申請人会社がそれ程の合理的理由も必要もないのに本件配転を強行しようとしたのも、申請人をAの職場から離脱させることによって組合員資格を奪いもしくは労働組合活動を事実上阻害する意図に出でたためと解され、従って本件配転は労働組合法七条に違反するもので、この点でも無効というほかない。 〔解雇―解雇権の濫用〕 2 本件解雇の効力について 本件配転命令が右にみたとおり無効と解すべきものである以上、申請人が右配転命令に従って直ちに本社工場で就業しなかったことを理由として、その後被申請人会社が申請人に対してした減給、出勤停止及び始末書提出という懲戒処分も処分の根拠を欠き無効というほかない。しかも、本社就業規則では、始末書提出は譴責処分の内容となっているだけで、減給、出勤停止処分に付された者に更に始末書の提出を求めうるという懲戒規定は見当らず、被申請人会社はA出張所における前記変更後の就業規則上の懲戒規定に基づいて申請人に対し始末書提出を要求したと解されるが、このような就業規則の適用は許されないというべきである(一般に配転前と配転後の各事業所に各別の就業規則があるときは、配転後は配転後の事業所の就業規則が適用されるのが原則であり、加えて本社就業規則に照すと会社が択一的であるべき出勤停止処分と減給処分を併科した点、五日以内であるべき出勤停止期間を七日とした点など本件懲戒処分には問題が多い)。 しかして、七月一三日以降は申請人が本件配転について異議をとどめながらも本社における就労を申し出ているにもかかわらず、かつまた、組合が申請人の配転及びその後の懲戒処分について団体交渉を申入れているにもかかわらず、労使交渉の場で紛争を解決する努力を一切せず、専ら申請人に対し根拠に乏しい始末書提出を要求した末、申請人がこれに応じないことを理由にした本件解雇の意思表示は、予告付のものであるとはいえ、解雇権の濫用として許されないものといわなければならない。 |