全 情 報

ID番号 00304
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 パン・アメリカン航空事件
争点
事案概要  使用者が遠隔地への転任命令を出すおそれがあるとして、本人の合意に基づかない限り転任されない地位にあることを仮に定めることを求めた仮処分事例。
参照法条 労働基準法2章
民事訴訟法(平成8年改正前)225条,760条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1979年5月30日
裁判所名 千葉地佐倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和54年 (ヨ) 29 
昭和54年 (ヨ) 32 
昭和54年 (ヨ) 35 
昭和54年 (ヨ) 38 
裁判結果 却下
出典 労経速報1020号10頁/労働判例325号41頁
審級関係
評釈論文 塚原英治・労働判例326号4頁
判決理由  被申請人会社が申請人らに対し転任の意思表示をなす以前であっても違法な転任権の行使が確実に予想できる段階においては、疑問はあるものの、転任の禁止を求める仮処分を求めることはできるものと解される。
 しかしながら、労働契約及び協約の余後効の点をひとまず除いても、少なくとも就業規則は現時点において変更されておらず、依然第二一条C項(注「配置転換は、会社とその当該社員との合意に基づき実施される」)は有効に存在しており、会社もその旨明言しているのである。
 もとより被申請人会社は、生産性向上を目指しており、経営合理化のために人員を適正に配置する際、障害となるとみなしている右C項を削除したい意向を有しており、本年三月二一日には全従業員に対し、右C項は、本年四月一日をもって除かれる旨伝達し、かつ組合との団交の席上でもその旨を表明した。しかし現時点において会社は、現在直ちに一方的に就業規則を改正する意思はなく、あくまで団交によって新労働協約締結の一環としてC項削除の点の解決をはかりたいと考えており、組合ないし申請人らの意向を無視して一方的にC項を削除し、かつ秘密裡にその旨の届出をすることはしないし、一方的な転任命令を出すこともしない旨言明しているものである。
 従って、申請人らは、現時点において、合意に基づかないで転任命令を受けることのない法的地位にあることは明白で、被申請人会社もその事実を承認しており、かつ本件仮処分申請後今日に至るまでの二カ月間を通じて右地位を侵害するような、いわゆる一方的転任命令ないし強行配転は全くなされていないのである。
 (中 略)
 その間にあって会社が転任の打診ないし説得活動をすることはもとより自由であって、右説得を受けた労働者が自己の法的地位に対する理解と自覚が不十分であった為、右保障を生かし切れず、事実上上司の圧力に屈したとしても、そのことの故に、ただちに強行配転になるものではない。又、このように法的地位が十分保障されていても肩たたきが行なわれると、労働者は断りにくいので、労働者の抵抗を強めるため仮処分で、右法的地位の存在を宣明してほしいといわれても、そのような事情は法律上の紛争とは認められない。
 もしあくまで会社の転任の意向打診及び説得活動が強引すぎて違法であるというのなら端的に、その点の差止めないし右によってなされた転任の効力を争う仮処分申請を行うべきであろう。