ID番号 | : | 00322 |
事件名 | : | 労働契約上の権利確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日立電子事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 親会社の九州営業所への出向命令を拒否したために懲戒解雇された原告が、労働契約上の権利の存在の確認、賃金支払、元の勤務部署以外に勤務する義務のないことの確認を求めた事例。(一部認容、一部棄却、一部却下) |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法625条1項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠 |
裁判年月日 | : | 1966年3月31日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和39年 (ワ) 3028 |
裁判結果 | : | 一部認容 一部却下 一部棄却 |
出典 | : | 労働民例集17巻2号368頁/時報442号16頁/タイムズ193号121頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 阿久沢亀夫・季刊労働法60号103頁/宮島尚史・判例評論93号36頁/吾妻光俊・労働経済判例速報569号3頁/後藤清・法律時報38巻9号110頁/山本博・月刊労働問題99号98頁/松岡三郎・労働法学研究会報665号1頁/石井照久・労働法の研究【2】199頁/渡辺裕・ジュリスト401号121頁/片岡昇・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕20頁 |
判決理由 | : | 使用者が、企業体の経営者として労働者の労働力を業務目的のため利用処分する権能は、当該労働者との契約により初めてこれを取得するところであって、この契約関係を離れて、労働力を処分利用できる使用者の固有権限は存しないものといわなければならない。しかして、右労働力の処分利用を目的とする雇傭契約は、民法六二三条にいうとおり労務者が使用者に対してその指図(指揮命令)下に労務に服し、その対価として賃金を得ることを内容とし、目的たる給付の性質上使用者と労務者との間における命令服従の人的関係をその基盤とするものであって、右契約の特質に鑑みれば、労務者は別段の特約がない限り当該使用者の指揮命令下において使用者のためにのみ労務提供の義務を負担し、使用者が労務者に求め得るところも自己の指揮命令下に自己のためにする労務の給付にとどまるものと解するのが相当であり、民法六二五条が使用者の第三者への権利譲渡、労務者の等三者による労務提供につきいずれも相手方の承諾を要する旨規定した趣旨も、上述したような労務給付義務(又はこれに対応する権利)の一身専属的な特質を考慮したものといえる。右のような雇傭契約の特質は、近代企業において使用者・労務者間の人的関係における個人的色彩が薄れ、組織化された雇傭関係においても失われるものではなく、むしろ法はかような労務者の特定企業への従属性を配慮して、使用者に対し労務契約締結の際労働条件の詳細を労働者に明示することを要求することにより(労働基準法一五条一項、同施行規則五条)、労働者の保護を図っているのであって、右法の精神からいっても、使用者は労働契約に際し明示した労働条件の範囲を超えて当該労働者の労働力の自由専恣な使用を許すものではなく、当該労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠なくして労働者を第三者のために第三者の指揮下において労務に服させることは許されないものというべきである。 たしかに労働契約締結に際し当事者間に明示の合意がない事項についても、それが企業社会一般において、或いは当該企業において慣行として行なわれている事項である場合には、黙示の合意によりそれが契約の内容となっていると認められる場合があり、又契約締結時にはそのような合意を認められない場合でも、労働契約関係が現実には長期に亘る継続的契約であって、労働関係の内容が多種類且つ流動的なことから契約締結後に契約内容と異なる慣行が長期間に亘って労働関係を律し、当事者もそれによることを黙示的に合意していると認められる場合には、その慣行によって当初の契約内容が修正されたものと解する余地があることは否定できない。しかし右にいう慣行とは、当該慣行が企業社会一般において労働関係を律する規範的な事実として明確に承認され、或いは当該企業の従業員が一般に当然のこととして異議をとどめず当該企業内においてそれが事実上の制度として確立している底のものであることを要する。 雇傭契約の性質につき上記1に判示したところに従えば被告が主張するような出向義務を認めることは契約内容の重要且つ労務者に不利な修正というべきであるから、仮に就業規則に契約変更の効力を認める見解をとるとしても、その根拠規定は規則上明白なものであることを要するものというべく、出向義務に関する直接規定もなしに休職事由の規定中前記三号のような不明確な定めがあるからといって、就業規則上出向義務を創設したものと解することはとうてい困難である。 以上の諸事実は、出向者の多くが自ら出向を希望し、或いは希望しないまでも出向の利害得失を自主的に判断したうえ被告会社の申出に応じたまでであるとの推測を裏付けるものであり、従って出向者らが例外なく被告会社の出向命令に応じた事実をもって、被告会社の従業員一般が出向の義務を明らかに是認していたものと断ずることはできない。 |