ID番号 | : | 00330 |
事件名 | : | 労働契約関係存在確認請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 小野田セメント事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 東京の研究所に勤務中に和歌山県下の系列会社への出向を命ぜられた従業員が一たん同意しながら後にこれを拒否したとしてなされた懲戒解雇につき、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 民法625条1項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠 |
裁判年月日 | : | 1973年11月29日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ネ) 1807 |
裁判結果 | : | 棄却 新請求棄却(確定) |
出典 | : | 時報727号91頁/東高民時報24巻11号205頁 |
審級関係 | : | 一審/04191/東京地/昭45. 6.29/昭和41年(ワ)11771号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 以上のとおり、本件出向に関する人選ならびにかかる人選の経過から控訴人の同意を得てなした本件出向それ自体に所論のような不合理性を認めることはできず、したがってまた、かかる経緯による本件出向を拒否した控訴人に対してした被控訴会社の本件解雇処分に控訴人主張のような解雇権の乱用があるとは認め難い。 (中 略) 係争の出向については、当該企業の労働協約・就業規則の規定、あるいは更に、確立された労働慣行にその根拠を求めて、その合理的範囲を決するほかなく、それが存在しないときは控訴人の同意の有無が問題になる。 (中 略) 昭和四〇年八月九日被控訴会社とA労働組合(以下、単に組合という。)との間で締結された昭和四〇年労協第二号基本労働協約には、その一四条に「社員の労働時間そのほか労働条件に関しては、就業規則の定めるところによる。」と、また、その一五条一項前段に「社員の採用・配置転換・昇給・休職・復職に際しては、会社は発令前に組合に通知する。」とあるほか、配置転換について、その意義や内容を定めた規定はなく、右一四条によって、その労働条件に関する定めがすべて就業規則の規定に任された形になっている。そして、被控訴会社の就業規則(昭和二二年九月一日施行)第三章第二節には、節名として「配置転換」とあり、同節の唯一の条項である三一条には「〔1〕業務のつごうで、社員に転勤を命じまたは職場・職種の変更を命じることがある。〔2〕前項の場合、社員は正当な理由がない限りこれを拒んではならない。」とあるだけで、「出向」ないし「他社派遣」の文言は全くない。もっとも同章第三節「休職・復職」の中の三二条四号には、休職の一事由として「会社の事業のつごうによって会社外の職務に従事し、休職を適当と認められた者」と定められており、会社の事業上の必要によって、社員が会社以外の職務に従事する場合のありうることを就業規則上前提としていることを認めることができ、これが被控訴会社の前記「他社派遣社員取扱要領」で定めている「他社派遣」の場合であろうことは容易に推測できる。しかし、右三二条四号の規定によっても、「会社外の職務」に従事するのが、会社の命令によってできるのか、当該社員の同意を要するのかは、規定上必ずしも明らかでないうえ、「転勤または職場・職種の変更」なる用語が、常識的には会社内の転勤、職場・職種の変更を意味することを考えあわせると、配置転換に関する前記三一条の規定の中に「出向」ないし「他社派遣」を含むと解するには困難がある。 (中 略) 以上のとおりであって、被控訴会社が、会社内の従業員の配置転換におけると等しく、その指揮命令権の行使として、その従業員に対して他社派遣(在籍出向)を命ずる労働契約上の正当な根拠を認めることができない。 (中 略) 控訴人は、前述のように一旦派遣に同意をしたのち、一二月二一日会社の辞令交付を拒否したのであるが、その後は意思表示の瑕疵など取消事由がない限り右の承諾の意思表示を取消すことは許されず、また相当の理由がない限りさきになした承諾を撤回することはできないと解することが信義則上相当であり、前判示の事実関係に徴すれば、本件において右取消、撤回を許すべき事情があるとは認められない。 (四)以上考察したとおり、本件出向については控訴人の同意があったことになり、したがって、被控訴会社の発した本件出向命令は右同意に基づくものとして適法有効であると解すべきである。 |