ID番号 | : | 00332 |
事件名 | : | 雇用関係存続確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 古河電工・原子燃料工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 復帰命令を拒否したことを理由に他会社との共同出資によって新設された新会社へ出向していた労働者を懲戒解雇に付した出向元会社、および出向元会社の懲戒解雇の意思表示以降雇用関係の存続を否認している出向先会社に対して、出向労働者の雇用契約上の権利の確認が求められた事例。(請求棄却) |
参照法条 | : | 民法625条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 復帰命令 |
裁判年月日 | : | 1977年12月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ワ) 1935 昭和49年 (ワ) 6075 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働民例集28巻5・6合併号698頁/時報886号94頁/労働判例289号27頁/労経速報971号3頁 |
審級関係 | : | 上告審/00345/最高二小/昭60. 4. 5/昭和56年(オ)856号 |
評釈論文 | : | 渡辺裕・ジュリスト705号153頁/渡辺裕・季刊労働法111号152頁 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣―復帰命令〕 五 被告Y1会社との間の雇用関係の存否 在籍出向は先に述べたように、出向元との雇用関係を維持しながら出向先の指揮監督を受けてその業務に従事するものであるが、出向により出向者と出向元との間においても雇用関係が成立するのか、単に日常の労務指揮の服従関係が存するのかは一義的に決定することができない。当該出向がそのいずれに属するかは、第一次的には当事者間の明示の合意によるが、本件出向においてかかる明示の合意は存しないから、この点も出向の目的、形態、出向に至る交渉経過及び出向後の賃金支払い関係、労務指揮関係の実態等を綜合して判断しなければならない。 そこで本件についてみると、前記のとおり、本件出向が、被告Y2会社とA会社との核燃料部門を物的、人的施設ともにほぼ在来のまま新会社に引継がせ、核燃料専業企業として発展することを期して新会社を設立し、これにともなってなされたものであることに照らせば、少くとも将来新会社が独立の企業基盤を備える時点においては出向者と新会社たる被告Y1会社との間に独立の雇用関係を成立させるべく予定したものとみなければならない。しかしながら被告Y1会社が右のように独立の企業基盤を未だ持つに至らず、それまでの過渡的措置として、前認定のように出向者に対する給与等支給関係、社会保険取扱いの関係、人員調整等の理由による復帰を被告Y2会社においてなしうる関係等、賃金請求権、労務指揮権両面の関係において出向者と被告Y2会社との間に極めて緊密な関係が維持されていることに照らせば、出向者と被告Y1会社との間に、別個に独自の雇用関係が成立したものとは未だ認めえないものとみるべきであろう。 なお被告Y1会社との間にも二重に雇用関係が成立したものと解するとしても、その契約関係は、原告と被告Y1会社との間に別個の特段の合意がなされるのでない限り、出向に関する原告と被告Y2会社間及び被告Y2会社と被告Y1会社間の各合意と無関係に成立するものではなく、右各合意の目的とするところの範囲内において成立するのにすぎないと解される。即ち、右各関係において有効に原告の出向関係が解消されれば原告及び被告Y1会社のいずれからもその雇用関係を当然に解約しうるものと解すべきである。従って前記のように復帰につき被告Y2会社と被告Y1会社との間に合意が成立し、これに基づき被告Y2会社が原告に対し復帰を命じた以上、被告Y1会社は他に何らの制約なく原告に対し解約をなしうるものというべきであり、前認定のとおり本件復帰に当り被告Y1会社もまた原告に対しその命令を発しているのであるから、右の見地に立つときは、これは右解約の意思表示に当る。そしてこの場合、解約に予告期間を置くというようなことは、各当事者が出向に際し予め予定したところに反するばかりでなく、労働者の保護のためにも必要のないことであるから、解雇に関する民法上、労働基準法上の制約は受けず、その意思表示のときから直ちに効力を生ずるものと解すべきである。 よって、いずれの観点からしても、少くとも本件復帰命令後においては原告と被告Y1会社との間の雇用関係は存在しない。 〔配転・出向・転籍・派遣―復帰命令〕 ところで、本件において、出向者に対する復帰命令は被告両社いずれにより発せられるべきかを検討しなければならない。元来企業基盤確立のための人員調整等は当該企業の独自の判断に基づいて行なわれるべきは当然であるが、既に認定したような新会社設立の趣旨、経緯及びその運用の実態にかんがみ被告Y2会社の意向が右人員調整等に反映されて然るべき関係にあるものということができ、それなればこそ被告両社の出向協定において「出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議してこれを行なう」旨が合意されたのである。かかる事情と、出向命令を発したのも出向者を再び受け入れるのもともに被告Y2会社であることにかんがみ、また出向者の地位を不安定ならしめないために、これら人員調整等は同被告からの出向者に関する限り、被告両者の一致した意見に基づく被告Y2会社の復帰命令という形式により行なわれるべきものと解するのが相当である。しかして、この関係は、出向者が被告Y2会社の従業員としての身分を保有したまま被告Y1会社との間でも雇用関係を結ぶに至ったかあるいは単に同被告の日常の労務指揮権に服するにとどまるかにより差異を生ずるものではなく、出向者は被告Y2会社の復帰命令により再び同被告に対する労務提供義務を負うと共に、被告Y1会社に対するそれを免れ、かつ賃金請求権を失うに至るのである。 〔配転・出向・転籍・派遣―復帰命令〕 かかる事情のほか出向者の給与、社会保険料の負担等による被告Y2会社の経営援助その他前記二項に認定した被告両社の関係を綜合して考えると、少くとも被告Y1会社が企業としての統一性、独立性を備え、独立の企業としての基盤を持つに至るまでの間は、出向者が被告Y1会社の従業員として定着するかあるいは同社内における人員調整、適切な人員配置等の人事上の都合により被告Y2会社に復帰するかは、極めて流動的な状態にあって、これらの都合により同被告に復帰することのあるべきことを予定して本件出向及びこれに対する出向者の同意がなされたものと解するのが相当である。かかる見地に立てば、復帰命令はそれが人員調整を理由とするものであると否とを問わず新会社の企業基盤確立の観点から合理性を肯認し得る限り復帰予定者の個別的同意がなくても有効と解すべきである。 (中 略) そこで、本件復帰命令の合理性について考えると、これが発せられた昭和四七年一二月一八日の時点において、被告Y1会社が未だ右の意味において独立の企業としての基盤を有するに至っていないことは、前二項に認定したところにより明らかである。そして、その理由とするところは右三項に認定したとおり、原告の長期欠勤等勤務不安定とこのことについての訴外A会社ないし同社からの出向者への信義上の配慮にあるところ、本件復帰命令の直接の契機となった米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際逮捕勾留されたことによる長期欠勤の責が原告にあるかどうかにかかわりなく、かかる不慮の欠勤が客観的に被告Y1会社の業務遂行に支障を来たすものであることは明らかであり、前認定のように原告はこれまでにも同種の事由により長期欠勤したことがあるほか欠勤が多く、かつ右長期欠勤の後上司が与えた注意に対し原告が耳を貸そうとしない態度を示す以上被告Y1会社及びY2会社において、将来にわたって原告の勤務不安定が改められず業務に支障を来たすべきことを懸念するのは、至極当然のことといわなければならず、発足間もなく未だ企業基盤も定まっていない被告Y1会社にとって従業員のかかる勤務不安定性はとりわけ重大である。そしてA会社との共同出資により合弁会社たる被告Y1会社を設立した被告Y2会社としては、その企業基盤の確立に寄与すべき信義上の義務を、A会社に対してもまた被告Y1会社に対しても負っているのであるし、また被告Y1会社内部においても、被告Y2会社からの出向者はA会社からの出向者に対して同種の信義上の義務を負ってるものといえるから、かかる考慮から被告両社が一致してこのように勤務不安定な原告を引続き被告Y1会社において勤務を継続させるより被告Y2会社に復帰させることを妥当と判断することは、合理性あるものとして首肯しうるところである。 |