全 情 報

ID番号 00335
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 栃木合同輸送事件
争点
事案概要  労組(合同労組)が労使協調に片寄りすぎるとして労組から脱退し、他組合に加入した労働者を、労組とのユニオンショップ協定に基づき解雇した会社に対して、従業員たる仮の地位の保全が求められた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項,625条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
裁判年月日 1978年7月7日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和53年 (ヨ) 405 
裁判結果 認容
出典 時報909号102頁/労働判例305号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―出向命令権の根拠〕
 三、疎明資料によれば、申請人Xは昭和三六年三月二七日訴外会社に入社し、かつ、後記参加人A労働組合藤木分会の組合員となったが、訴外会社が昭和五一年八月中旬頃艀部を廃止して所有艀船三隻を被申請人に譲渡する際、外二名の艀船員とともに被申請人に出向を命ぜられ、以来被申請人の従業員としてその指揮命令下に艀船員として労務を提供し、賃金の支払を受けて来たこと、及び出向と同時に後記参加人A労働組合栃木合同分会の組合員となったこと、退職金につき訴外会社と被申請人との間で退職時点において訴外会社と被申請人の勤続年数を通算したうえ訴外会社の退職金規定に従って計算した金額を支給すべき退職金総額とし、そのうち被申請人が申請人Xの同社勤務年数分については被申請人の退職金規定によって支払い、残額については訴外会社が支払う旨約定されており、右約定に従い申請人Xは右出向の時点で訴外会社から退職金を受領していないこと、以上の事実が認められる。右事実に照らすと、申請人Xの出向は、いわゆる在籍出向と解するのが相当である。
 ところで、在籍出向である以上、出向元である訴外会社と申請人Xとの間の労働契約(労働義務の免除のなされたいわゆる地位取得契約)は、消滅してはいないものの、申請人Xは、現に出向先である被申請人の指揮監督に従って艀船員として労務を提供し被申請人から賃金の支払を受けてきたのであるから、申請人Xと出向先である被申請人との間には出向元との労働契約と並んで通常の労働契約が成立しているものというべきである。
 〔解雇―ユニオンショップ協定と解雇〕
 (二) 被申請人及び訴外会社と参加人との間の労働協約九条三項には「甲に雇用された従業員で、故なく乙に加入せず、乙の承諾なくして乙以外の労働組合に加入し、又は故なく乙を脱退し、若しくは除名された場合は、甲はこれを解雇する。但し、甲・乙協議の上認めた者はこの限りでない。」(甲は被申請人ないし訴外会社、乙は参加人A労働組合をいう)と定められており、参加人A労働組合の組合規約三八条には組合を脱退しようとする者は、その理由を書いた脱退届を分会又は支部を通じて届出なければならないと定めている。
 五、ところで、憲法二八条の労働者の団結権保障規定は、個々の労働者の団結の自由(組合結成の自由)ないし団結体選択の自由(組合選択の自由)の保障と、団結体(組合)の団結権の保障の両者を含み、後者の団結権は対内的統制権能と対外的組織化権能を含むものであると解され、従って、一方の組合に属する組合員が当該組合を脱退して他の組合に加入することは、一面において労働者の団結体選択の自由にかかわるものであり、これは同時に一方の組合のもつ団結権の対内的権能と他の組合のもつ団結権の対外的権能の衝突、競合の問題にかかわるものでもあるから、このような場合には、憲法二八条の精神に照らし、特段の事情なき限り、一方の組合と使用者との間に結ばれているショップ協定の効力は右脱退者には及ばないと解するのが相当である。
 蓋し、ショップ協定は、使用者の助力により団結を強化する側面をもつから、この助力が右のような場合に効力を有するとすると、労働者の組合選択の自由を阻害し、また一方の組合の団結権を擁護し、他の組合の団結権を圧迫する作用を営むことになり、これは憲法二八条の精神に反する結果を招来するからである。
 この理は、右の二組合が企業内組合であると、本件のように業種別合同労組であるとにより異るところはないと解される。
 これを本件についてみると、前記のとおり申請人らは参加人A労働組合の組合路線を不満として同組合を脱退して全港湾に加入したものであり、本件全疎明資料によるも申請人らが参加人A労働組合の組織妨害等の不当の目的で脱退したとか、全港湾が憲法二八条で保障する団結権の保護に価しない自主性を欠いた組合であること等のことは認められないから、申請人らには本件ショップ協定の効力は及ばず、従ってショップ協定に基づき通常解雇事由該当を理由になされた被申請人及び訴外会社の本件解雇の各意思表示はいずれも無効である。