ID番号 | : | 00339 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 森実運輸事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 整理解雇回避のための出向命令に従わなかった労働者を解雇したことにつき、出向命令権及び解雇権の濫用であるとして、従業員としての地位の保全を求めた仮処分事件。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章,89条1項9号 民法1条3項,625条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 |
裁判年月日 | : | 1980年4月21日 |
裁判所名 | : | 松山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ヨ) 118 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例346号55頁/労経速報1065号21頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 野川忍・ジュリスト738号146頁 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣―出向命令権の根拠〕 出向は、労働者が雇用されている会社内における業務内容、職種、就労場所等の変更である配置転換と異なり、使用者が労働者との間の雇用関係を存続させるとはいえ、労働者に使用者以外の第三者の指揮命令の下に就労させる義務を生じさせるものであるから、原則として、労働者の個別的同意を要するものと解される。もっとも、使用者がいかなる場合に労働者に出向を命じ得るか、その際の賃金額をいくらとするかなどの出向の諸条件は、労働条件の一つであるから、労働協約や就業規則による集団的画一的な決定になじまないものではないと考えられる。したがって、出向の諸条件が労働協約や就業規則で制度として明確にされている場合には、労働者のその都度の個別の同意がなくても、使用者は労働者に出向を命じ得るものと解してよいと考える。しかしながら、債務者会社において、出向の諸条件が労働協約や就業規則で制度として明確にされていることの疎明はなく、前記のとおり、就業規則三四条に、業務の都合によって社員に出向を命ずることがある旨の抽象的規定があるのみである。 そうすると、債権者両名は、債務者の出向命令に従うべき義務はないものというべきである。 〔解雇―整理解雇―整理解雇の基準〕 債務者は就業規則四二条五号により、艀部門の縮小のため同部門の従業員を解雇するのやむなきに至ったということができる。債権者らは、整理解雇について、解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度に差し迫った経営上の必要性がある場合にはじめて許容されるものである、と主張するが、資本主義経済社会において、企業は、出資者(すなわち、株式会社についていえば、株主)の利益を犠牲にし、採算を無視して労働者の雇用を継続すべき義務を負うものではないから、右主張は、採用できない。 (中 略) もっとも、債務者が艀部門の縮小のため同部門の従業員を解雇することができるといっても、債務者は、同部門の従業員のうちから自由に整理解雇の対象者を選定できるものではなく、被解雇者の選定は、合理的な基準に基づくものであることを要し、また、整理解雇につき、関係労働組合の了承を得るために、債務者は、相応の努力をすることを要するものというべく、もし、被解雇者の選定基準に合理性が欠け、また、整理解雇について労働組合の了承を得るための努力がなされず、解雇が性急になされた場合には、それは、信義則に反し、解雇権の濫用にわたるものとして無効であるというべきである。 |