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ID番号 00347
事件名 休職処分の効力停止等仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本冶金工業事件
争点
事案概要  いわゆる沖縄返還協定反対闘争に参加して逮捕勾留され、公務執行妨害罪および兇器準備集合罪で起訴された労働者が、前記事実を理由として就業規則に基づく休職処分を受けたので、当該処分の効力停止等の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1975年2月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ヨ) 2340 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例219号50頁
審級関係
評釈論文 下井隆史・労働判例220号4頁
判決理由  〔労働契約―労働契約上の権利義務―就労請求権・就労妨害禁止〕
 (就労請求権)
 四 労働契約は労働者の労務の提供(就労)と使用者の対価(賃金)の支払を基本的な法律関係とする双務契約であるから、労働契約に特別の定めがある場合または労務の提供の性質上労働者が労務の提供に特別な合理的利益を有する場合を除いて、労務の提供は義務であって権利ではない。本件については、右特別の定めについても申請人の特別な合理的利益についてもこれを認めるに足る疎明はないので申請人の就労の権利を認めることはできない。
 (立入請求権)
 五 申請人は、前記のとおり就労請求権を有しないので、本件処分が無効であっても被申請人の従業員として就労のためA構内に立入る権利はない。しかし、申請人がB株式会社労働組合の組合長であることについて争いがないので、申請人は組合員としての資格に基づき組合活動のためA構内に入構する権利を、被申請人の施設管理権の行使と調和する限度において、保有する。
 〔休職―起訴休職―休職制度の合理性、休職制度の効力〕
 一般に、刑事被告人は、有罪率が極めて高い我国の刑事裁判の実情からすると、起訴により犯罪の嫌疑が相当程度客観化されたものとして社会的評価を受ける。そこで企業において起訴された従業員が引続き就労するときは、起訴事実の内容、それと担当業務とのかかわりあい、当該従業員の企業における地位等の諸事情によっては、企業の対外的信用が害されたり、あるいは職場秩序の維持に支障を及ぼすおそれのあることは否定できない。また、刑事被告人は公判期日に原則として出頭する義務を負うので、勾留されている場合は勿論のことそうでない場合でも安定した労務を提供できない場合が生ずる可能性があり、その面から業務の円滑な遂行が阻害される場合も予想される。いわゆる起訴休職制度の目的は右のような場合に刑事裁判が確定するまで従業員の身分を保有させながら一時的に業務から排除して、企業の対外的信用の確保と職場秩序の維持をはかり、労務提供の不安定に対処して業務の円滑な遂行を確保するにあると思われる。
 そうであれば、企業は、従業員が起訴された場合には、当該従業員の就労を適当としない前記の諸事情を検討の上、引続き就労させることにより、企業の対外的信用の確保、職場秩序の維持や業務の円滑な遂行に相当程度の障害がある場合に限り、起訴休職に付することが許されると解すべきである。
 申請人に対する起訴事実の内容の詳細は明確にされていないが、いわゆる沖縄返還協定反対闘争に参加した際の行動について起訴されたものであってAの業務にも申請人の担当職務にも関係がないことは明らかである。しかも、申請人の地位は約一九〇〇名の従業員が従事する川崎製造所のいわば末端の一従業員に過ぎない。もとより起訴罪名からすれば起訴にかかる申請人の所為はそれが真実であれば強く非難されてしかるべきものではあるが、それにしても、刑事裁判の進行中申請人を引続き就労させたからといって被申請人の対外的信用の確保にそれ程影響があるとは考えられない。
 また申請人の担当職務からすると、申請人の思想、信条によってその作業内容が影響するとは思われないし、証人Cの証言によれば申請人は従前職場の同僚との人間関係に若干異和感があったことが認められるが、そうにしても、申請人の就労により職場の人間関係が悪化するとも職場の秩序維持にそれ程の支障をきたすとも考えられない。被申請人は、申請人が防衛庁関係の受注を敵視し職場で暴力の行使ないし実力的破壊行為にでるおそれがあると主張するが、その疎明はない。
 次に申請人の就労が期待できないと予想されるのは公判期日に出頭する場合であるが(公判期日の準備のため就労に支障をきたす程のものを要することの疎明はない)、それは申請人の有する年間一八日の有給休暇でまかなえる程度のものと思われる。かりにまかなえない場合がでたとしても年間せいぜい一日か二日の程度であると思われ、その程度では労務提供に支障があるという程のものではない。被申請人は業務の円滑な遂行の阻害について種々主張するが、いずれも労務提供の支障を前提とするものであるから採用できない。
 4 以上の次第で、起訴後、申請人の就労により対外的信用や職場秩序の維持に支障をきたすことも業務の円滑な運営が阻害されることも認められないから、本件処分は被申請人就業規則四六条七号の適用を誤ったもので無効といわなければならない。