全 情 報

ID番号 00355
事件名 雇用関係存続確認請求事件
いわゆる事件名 石川島播磨重工事件
争点
事案概要  佐藤首相訪米阻止デモに参加して公務執行妨害罪および凶器準備集合罪の嫌疑で逮捕され、引き続き約半年間にわたって勾留された労働者につき、勾留に伴う欠勤を就業規則上の事故欠勤休職として扱い、事故欠勤休職が三〇日以上に及ぶとして、就業規則に従い退職扱いにした会社に対して、雇用契約上の権利の確認が求められた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法19条,20条,89条1項9号
体系項目 休職 / 事故欠勤休職
裁判年月日 1977年3月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 10777 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集28巻1・2合併号49頁/時報878号110頁
審級関係 控訴審/00357/東京高/昭56.11.12/昭和52年(ネ)711号
評釈論文
判決理由  (二)「事故欠勤休職」制度の利用と労基法その他による解雇の制約の僣脱
 原告は、通常解雇事由がある場合に限り「事故欠勤休職」処分ができると解さなければ「事故欠勤休職」制度が解雇の制約を免れるために利用されるおそれがあると主張するが、仮に本件「事故欠勤休職」制度が条件付解雇の性格を帯びるとしても、解雇の制限に関する労基法一九条の規定と牴触するものでないことは、上来見たところにより明らかであるのみならず、労基法二〇条との関係においてこれを見ても、すでに前記のように、その期間内に限り復職を可能とする一か月の解雇猶予期間を設定しているのであるから、同条所定の予告解雇よりも従業員にとって有利となる場合もあり得るのであって、これをもって同条に違反するものとすることができない。また就業規則七五条二二号に原告主張の規定があることは当事者間に争いがないところであるが、《証拠略》によれば、被告の就業規則七五条は、右のほか会社構内における暴行、脅迫、傷害、侮辱又は業務妨害(一二号)、背任又は横領(一九、二〇号)、会社の金品に限らず一般的な窃盗又は窃盗未遂等(二一号)の犯罪行為については、有罪判決の確定をまつまでもなく、懲戒権を行使することがある旨規定していることが認められるのみならず、「事故欠勤休職」制度は、長期にわたる従業員の責に帰すべき事由による欠勤を理由とするものであって犯罪行為を理由とするものではないのであるから、右就業規則七五条二二号の規定があるからといって、これをもって原告主張のごとく解雇すべき根拠とすることができない。そして、「事故欠勤休職」制度の利用によって、他のいかなる解雇の制約を僣脱するおそれが生ずるかについては、原告において何ら具体的に主張するところがない。
 なお、原告は、本件欠勤のごとく刑事々件によって逮捕勾留されたことによる欠勤は、他の自己都合による欠勤と区別して取扱うべき旨主張するので付言する。第一に本件「事故欠勤休職」制度は、例えば、身柄不拘束のまま刑事々件によって起訴され、現実に就労が可能であるにかかわらず、単に刑事々件によって起訴されたことの一事をもって休職事由とする場合と異り、就労意思の有無はともかく、一定期間にわたる労務の不提供それ自体をもって休職事由とするものであり(就業規則七七条一項四号)。この点においては他の自己都合による欠勤と何ら区別すべき点がないのみならず、逮捕勾留は、司法機関によって被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認定された場合に限り許される(刑訴一九九条、二〇七条、六〇条)のであるから、逮捕勾留が違法又は不当であると認むべき特段の事情が立証された場合はともかく、そうでない限り逮捕勾留による欠勤は、その者の責に帰すべき事由による欠勤に該当するものというべきであって、この点においても他の自己都合による欠勤と何ら区別すべき点がない(本件欠勤の原因となった逮捕勾留が違法又は不当であったことについて原告は何ら立証するところがないのみならず、原告は右逮捕勾留の理由となった犯罪行為によって昭和四九年九月三〇日に一審の有罪判決の言渡を受けたことは前記認定のとおりであって、本件欠勤は原告の責に帰すべき事由によるものとするほかない。)。