全 情 報

ID番号 00431
事件名 依頼退職処分取消請求事件
いわゆる事件名 昭島郵便局長事件
争点
事案概要  脅迫罪、器物損壊罪で逮捕、勾留され罰金二〇万円に処せられた郵便局員が、郵便局長の示唆によって退職願を提出したあと、依頼退職処分の辞令の交付の日に出頭せず、かえって右退職願を撤回する旨の通知をした後に依頼退職処分の取消を求めた事例。
参照法条 民法1条2項,627条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1981年4月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (行ウ) 107 
裁判結果 棄却
出典 行裁例集32巻4号544頁/時報1007号115頁/労経速報1085号3頁/訟務月報27巻8号1539頁
審級関係
評釈論文
判決理由  一般に退職願の撤回は、退職処分の効力発生前においては原則として自由であるといわなければならないが、退職処分の効力発生前であっても、退職願を撤回することが信義に反すると認められる特段の事情がある場合には、もはやその撤回は許されないと解するのが相当であるところ、本件においては、次に述べるとおり、右特段の事情を認めることができるからである。すなわち、右事実によれば、本件退職処分と本件懲戒処分とは、処分権者が異なるものの、密接不可分の関係にあり、両者が一体となって、懲戒免職処分とした場合の離職の効果を生じさせつつ、これに伴って生ずる退職金の不支給や再就職の際の不利益を回避するために採られた処置であるということができる。そして、原告は、昭和五三年四月五日、本件懲戒処分が本件退職処分と右のような関係にあるとの説明を受けたうえ、本件懲戒処分の処分書の交付を受けたものであり(右処分書の交付を受けた時、退職願が有効に存在したことは前述のとおりである。)、前認定の原告の非違行為の態様等に照らすと、東京郵政局長が右のとおり本件退職処分を前提として本件懲戒処分を発令したことが、合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものとは認められない(原告は、本件懲戒処分自体が重い処分である旨主張するが、採用できない。)。してみると、右本件懲戒処分の効力が発生した後においても本件退職願の撤回が許されるとするならば、個人の恣意によって行政秩序が犠牲に供される結果となり、処分の適正が著しく阻害されるに至ることは、多言を要しないところといわなければならない。したがって、前認定の事実関係のもとにおいては、少なくとも本件懲戒処分の効力が発生した四月五日以降に退職願を撤回することは信義に反して許されないというべきである。