全 情 報

ID番号 00459
事件名 地位保全等仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 宣広事件
争点
事案概要  独断的で協調性がないとして、解雇された試用期間中の労働者が、地位保全等の仮処分を申請した事例。なお、仮処分申請を争っている時に、商号の変更、さらに従前の商号による新会社の設立があった。(申請認容)
参照法条 労働基準法10条,21条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
解雇(民事) / 解雇予告と除外認定
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 1975年10月11日
裁判所名 札幌地
裁判形式 決定
事件番号 昭和50年 (ヨ) 415 
裁判結果 認容
出典 時報800号105頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―労働契約の承継―新会社設立〕
 以上のような事実を総合して考えるとその余の会社構成の実態についてさらに審理するまでもなく債務者と申請外会社は、経済的社会的にみて継続性を有し、本件雇傭契約の関係においては、実質的に前後同一の会社であるとみざるをえない。また株式会社が被用者とその解雇を廻って紛争中特段の合理的事由がないのに旧会社の人的物的営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、それは労働契約上の義務を免れるためになされたものと見るべく、しかも新旧両会社の実質は前述の如く前後同一で継続性を有する以上会社は被用者に対して信義則上新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社の何れに対しても右労働契約上の義務履行を請求できるものと解することができる。そして本件の場合右合理的特段の事由は認められないので、両会社が形式的には別法人という形をとっているとしてもその間における雇傭契約の承継等について改めて論ずるまでもなく申請外会社と債権者との間の雇傭契約の効力は、債務者に直接及ぶものと解すべきである。
 〔解雇―解雇予告と除外認定〕
 訴外会社は前記昭和五〇年四月二一日の解雇通告が即時効力を生じたとして債権者に対して、この時以後の賃金の支払いを拒絶してきているのであって、このように、使用者が、解雇通告の効力が即時生じたことに固執し、これを理由に経過分の賃金の支払いを全く拒絶している場合には、他方で後に三〇日分以上の平均賃金相当額を「予告手当」として提供したとしても、右金員の提供は、その実質において、労働者にとって何ら予告手当本来の意義を有しないのであるから、これによって、労働基準法第二〇条に違反する解雇が、その時から有効になるものと解することはできない。本件仮処分申請後になって債務者は予告手当の支払の用意がある旨を口頭により債権者に申し入れているが、他方ではなお即時解雇に固執し、賃金の支払は拒絶しているのであるから、右口頭の提供の時から当然に解雇が効力を生じたと解することはできない。
 また、同様に、使用者が解雇通告の効力が即時生じたことに固執し、これを理由に、以後の賃金の支払いを拒絶してきている場合には、その無効な即時解雇の通告に、他方で解雇予告としての効果を認め、その後法定期間が経過した時点で、当然に解雇の効力が生ずると解することはできない。すなわち、右のような解釈は、法定の手続に違反した解雇を行い、しかもその後もなお一方ではその即時解雇としての効力に固執している使用者の便宜に傾きすぎるものであり、他方で、これを受けた労働者の出所進退を迷わせ、かつ労働基準法が解雇には三〇日以上前に予告を要することとし、労働者に対して、安定した雇傭関係のもとにおいて、求職のための十分な猶予期間を与えようとした趣旨を、実質的に没却する結果になるからである。
 〔解雇―労基法二〇条違反の解雇の効力〕
 労働基準法二一条四号によれば試用期間中の者といえども一四日を超えて引き続き使用されるに至った場合には、同法第二〇条が適用され、同条一項により少なくとも三〇日前に解雇の予告をなすか若しくは解雇予告手当として三〇日分以上の平均賃金の支払をなさなければならない。債権者が四月一日から同月二一日まで一四日を超えて働いたことは前記のように明らかであるから解雇予告手当の支払提供なしになされた本件解雇は無効である。