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ID番号 00474
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 橘屋事件
争点 常態として一日8時間を超える労働に対する割増賃金請求の可否と取締役工場長の管理監督者性が争われた事案。
事案概要 (1) 季節により繁閑の差が大きい菓子製造工場Yで働いていたXら38名は、昭和32年4月17日から昭和34年4月16日までの2年間について、閑散期の夏場は一日10時間、繁忙期の冬場は1日12時間の勤務に服していたとして、8時間を超えて働いた分の割増賃金の支払いを求めたもの。また、取締役工場長の地位にあったX1については、管理監督者性がないとして、割増賃金の支払いを同様に求めて提訴した。
(2) 大阪地裁は、ⅰ)労働時間は事実上、夏(6~8月)は10時間(6~17時。休憩1時間)、夏以外(9~5月)は12時間(6~19時)となっていること、雇入れに際し、最長3時間程度の時間外労働をしてもらう場合があるとしていたこと、月当たり定額の手取賃金を定め、時間外をしない月があっても年間を通じて同額の賃金を支払っていることは、生菓子製造業界の慣行であるとしても、いわゆる一日8時間労働の原則に反し、労基法所定の手続きを経たものでもなく、割増賃金を支払うよう求め、ⅱ)X1はその就労実態(①役員会に招かれていない、②賃金体系も他の従業員と何ら変わらない、③出退勤も制限されている、④製造工場の監督管理権は常務取締役にあったなど)からして管理監督者には当たらないと判断した。
参照法条 労働基準法13条
労働基準法33条
労働基準法36条
労働基準法37条
体系項目 労働契約(民事) / 基準法違反の労働契約の効力
賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
労働時間 (民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
裁判年月日 1965年5月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (ワ) 4196 
昭和34年 (ワ) 4693 
裁判結果
出典 労働民例集16巻3号371頁/タイムズ178号174頁
審級関係
評釈論文 深山喜一郎・月刊労働問題106号128頁
判決理由  〔労働契約―基準法違反の労働契約の効力〕
 右のとおり、Xらの労働時間が、いわゆる夏場にあっては一〇時間、冬場にあっては一二時間ということになると、右労働時間の定めは労働基準法第三三条、第三六条所定の手続を経たものでないかぎり(右手続が経由されていないことはYの認めるところである)、同法第三二条にいわゆる一日八時間労働の原則に反することは明らかである。そうすると、同法第一三条により、原告らのYにおける労働時間の定めは、一日八時間とする契約に修正されるものと解すべきである。
 ところで、労働時間を前記の通り修正した上で労働契約を有効とする場合に、賃金がどうなるかは一つの問題である。一般に賃金は常に労働時間に比例して定められるものとはいえないから、労働の性質や契約内容などから時間給であることが明らかな場合の外は、賃金の部分については影響がないものと解するのが相当である。
 〔賃金―割増賃金―違法な時間外労働と割増賃金〕
 同法第三七条によれば、同法第三三条及び第三六条の条件を具備した時間外労働には使用者は割増賃金の支払義務のあることは明らかであるが、右条件を充足しない違法な時間外労働に対しては法は明示するところがない。しかしながら、適法な時間外労働に対し割増賃金の支払義務があるならば、違法な時間外労働をさせた場合にはより一層強い理由でその支払義務を認めるのが当然であるから、同法第三七条は前記条件を具備しない場合にも、時間外労働に対し割増賃金の支払義務を定めたものと解するのが相当である。
〔労働時間 (民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者〕
X1本人尋問の結果によると、X1はYの取締役に選任されてはいたが名ばかりのもので一度も役員会に招かれず、役員報酬なるものも受けないで毎月他のXらと全く同じ賃金体系による賃金を支給されていた外、出社退社についても他のXら等と全く同じ制限を受けており、また工場長とはいいながら何等実質の伴わない形式上の名称だけにすぎず製造工場の監督管理権は常務取締役にあつた事実が認められる。以上認定の事実から考えるとX1は同法第四一条第二号にいう監督又は管理の地位にある者に該当しないものと解するのが相当であるからYはX1に対してもその時間外労働賃金を支給すべき義務があるものといわねばならない。