判決理由 |
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なお、解雇予告手当について付言する。労基法二〇条所定の平均賃金(以下、解雇予告手当という。)の支払をしないでなされた解雇の意思表示は、即時解雇としての効力を生じないものではあるが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、解雇通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、又は解雇予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるものとされている(最判昭和三五年三月一一日民集一四巻四〇三頁)。そして、右のような使用者の解雇の意思表示は、通常、即時解雇を固執する趣旨でないものと解されるが、右意思表示に対して労働者が即時解雇を争う限りにおいては引続き約旨にしたがった労務の提供があるべきで、その場合には、その期間についての賃金請求権を取得することになるとともに、解雇通知後三〇日の期間経過とともに雇傭契約は終了する。これに対し、使用者の右のような解雇の意思表示がなされた場合には、労働者において、即時解雇としての効力の発生を容認する趣旨ではないにしても、労務を提供しても受領されることはあり得ないものとしてその提供を断念するにいたる場合も起こり得ることは見易いところであり、かかる場合にあっては、労働者が現実に又は少なくとも口頭をもって労務の提供をしていない以上、賃金請求権の発生を認めることはできないし、また、使用者の責に帰すべき事由に因って労務提供をなすこと能わざるに至った(民法五三六条二項参照)と解することも困難である。しかし、労働者が右のように労務提供を断念するにいたったのは、使用者が労基法二〇条の規定に違反して解雇予告手当を支払わないにも拘らず即時解雇と受けとられる意思表示をしたが故であり、しかも、使用者は結果において右法条に違反する即時解雇の状態を実現させたことになるのである。そうとすれば、右法条により即時解雇するにあたって解雇予告手当支払義務を課せられている使用者は、右のような状態のもとに雇傭契約が終了した時点において、労働者に対し解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を具体的かつ確定的に負担するにいたるものというべく、その支払を受けるべき労働者の利益は裁判上の保護を受けるに足るものといえるから、裁判所は使用者に対しその支払を命ずることができるというべきである(同法一一四条参照)。そして、その額は、少なくとも同法二〇条所定の三〇日から解雇通知後労務を提供していた日数を控除した日数分の平均賃金額であり、また、解雇予告手当を現実に支払うことが解雇の有効要件と解されていることにかんがみ、前記具体的義務負担の翌日から遅滞に陥ると解すべく、その利率は、解雇予告手当が三〇日前の予告による三〇日間の賃金保障に代るものであり、かつ雇用契約関係終了に伴い生ずるものとして、商事法定利率によると解するのが相当である。さらに、労働者が解雇予告手当を訴求する以上は、特別の事情のない限り、前記の事情のもとに労務の提供を断念したものと認めるべきであって、本件においては特別の事情を認めるべきものがない。 |