全 情 報

ID番号 00560
事件名 解雇予告手当・附加金等請求事件
いわゆる事件名 日本印章事件
争点
事案概要  出張期間中に休日労働を強いられたことに関して会社代表者に手紙で異議を申し立てた試用期間中の労働者を解雇予告手当を支払わずに解雇した会社に対して、解雇予告手当およびこれと同額の附加金の支払が求められた事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法20条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 福利厚生
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
裁判年月日 1977年3月30日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 243 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例277号61頁
審級関係
評釈論文
判決理由  二 右認定の事実によれば、被告のした即時解雇の意思表示は、昭和四九年九月二五日になされたものであり、原告は試用ではあるが同年九月一〇日から起算して一四日をこえて引き続き雇用されている者として労基法二一条但書の適用があるため、右即時解雇については、労基法二〇条所定の予告手当金(三〇日分以上の平均賃金相当額)の支給を解雇と同時になすことが被告に義務づけられている。
 被告は、本件解雇は労基法二〇条一項但書にいう労働者の責に帰すべき場合に該当すると主張するけれども、同条一項但書にいう労働者の責に帰すべき場合とは、当該労働者に解雇予告もなさず、予告手当も支給しないで即時解雇されてもやむを得ないと考えられる程度に重大な職務違反又は背信行為があったような場合に限られると解されるところ、本件解雇理由は、前記認定の事実に照らし、休日労働の取り扱いをめぐる原告と上司の意見対立に起因するところが大であることが看取できるから、到底同条一項但書に該当するとは認められない。
 してみると、本件解雇には、法定の予告手当金の支給なくしてなされた違法が存することになる。
 三 このような解雇の意思表示は、即時解雇としては、本来無効というべきであるが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、解雇通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、又は予告手当金の支払をしたときに解雇の効力が生ずると解される。そして本件解雇の意思表示についても被告が即時解雇ができなければ解雇する意思はなかったと認めるべき事情は存しない。
 従って、もし原告が本件解雇の意思表示について、予告手当金の提供なき故を以ってこれを争い労務の提供を継続すれば、被告が労務の提供を受領するか拒絶するかにかかわりなく、解雇通知後三〇日の期間経過と共に雇用契約は終了し、このとき、原告は、右三〇日分の賃金債権を取得することになる(労務の提供を故なく拒絶されたときは、民法五三六条二項により賃金債権を取得する)。
 ところが、本件においては、原告は前記のとおり本件解雇の意思表示につき、予告手当金の支給されることを前提として解雇の効力は争わない旨を言明したのである。このように原告が解雇の無効を主張せず、労務の提供をやめたということであれば、雇用契約は当然に終了したものと認める外はない。
 そして、労基法二〇条違反の解雇をして、右のように雇用契約を終了せしめた使用者に予告手当金の支払義務なしとすることは同条の精神に背馳するから、雇用契約が終了した時点において、使用者たる被告は同条により原告に対し即時にかつ確定的に予告手当金を支払うべき義務を負うと解するのが相当であるから、原告は、裁判所に対し労基法一一四条により被告に対し予告手当金及びこれと同額の付加金の支払を命ずることを求めることができると解する。