ID番号 | : | 00576 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 共同タクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 飲酒運転により事故をおこしたことを理由に懲戒解雇された原告が、本件解雇は無効であるとして雇用契約上の権利を有する地位を仮に定め賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法20条,89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と解雇の効力 |
裁判年月日 | : | 1965年9月30日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和39年 (ヨ) 129 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働民例集16巻5号670頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 渡辺章・ジュリスト383号141頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕 また、会社就業規則第二一条四号に、懲戒解雇に関して申請人主張のような条項の定めあることは、当事者間に争いがないが、右条項は労働基準法第二〇条第一項但書、第三項、同法施行規則第七条の規定をそのまま要約してひきうつしたものにすぎず一方被申請人代表者本人尋問の結果によると、会社では従前から懲戒解雇の場合に右条項による除外認定を受けるべきことを必らずしも明らかに認識していなかったことが認められるから、右条項の定めあることをもって、会社が懲戒解雇の効力を除外認定の有無によって左右さるべきものとして、懲戒解雇をなすにつき自律的制限を加えた趣旨のものとみることは相当でない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務外非行〕 申請人の所為は、前記服務規律第二一条イ号の禁止規定に違反し、ひいては就業規則第二二条第一二号に該当することが明らかなばかりでなく、会社の業務内容から考えて、同条第九号にも該当することが明らかである。けだし、タクシー運転手なる者は客を運送中はその者の生命、身体を全面的に委ねられる立場にあり、また運転中は常に通行人・通行車の安全を計らなくてはならない立場にあって、いささかなりとも飲酒運転の許さるべきでないことは、改めていうまでもないにかかわらず、従業員中からかような社会的非難に値する運転手が出たことは、会社としての社会的名誉信用を傷つけられたというにいささかの妨げもないからである。加うるに、成立に争いのない乙第七号証の一、二によると、申請人は過去にメーター不倒で六日間の出勤停止処分を受けたことがあることを認めることができる。かような申請人について、会社が本件事故を契機として、就業規則に定めある懲戒解雇処分を選択して、申請人を企業内から放逐しようとすることは、今日の交通事情からみて特に厳しい規律を社会的に要請されているタクシー業者たる会社にとって当然の措置といえるであろう。 してみると、本件懲戒解雇は、明示の根拠規定なしに行われたものとはいえず、またその選択を誤ったものともいえないから会社が右就業規則違反を事由として申請人を懲戒解雇に付したことは相当である。 〔解雇―解雇予告と除外認定―除外認定と解雇の効力〕 次に、本件解雇が所轄川崎労働基準監督署長の労働基準法第二〇条の規定によるいわゆる除外認定を経ないでなされてしまったことは、当事者間に争いのないところである。しかしそれがため、本件懲戒解雇の効力が左右されることにはならないと解するのが相当である。除外認定制度は、労務行政の立場から、使用者が恣意的に懲戒解雇乃至即時解雇をなすことを抑制せんとし、かかる場合まずもって行政官庁の認定を受けるよう使用者側に義務づけたもので、その本質は事実確認的なものである。除外認定を経たかどうかということと、客観的に労働基準法第二〇条第一項但書に該当する事由が存在するかどうかということ(本件では懲戒解雇事由の存否)とは別個の問題であって、除外認定を受けないで懲戒解雇をした場合でも、現実にその事由が存するならば、有効であり、これに反し除外認定を経た場合でも、本来その事由を欠いているときは、解雇は無効とされざるをえないのである。従って、前示認定のごとく本件懲戒解雇はその理由ありとされたのであるから、それが除外認定を経ずになされたからといって、その効力に消長をきたすことはないというべきである。 |