ID番号 | : | 00577 |
事件名 | : | 地位確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 殖産住宅相互事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 加入契約をめぐる営業社員の間の争いの仲介者として問題の解決にあたることになった申請人が、就業時間中に一方当事者に暴行を加えて懲戒解雇されたので、従業員として取り扱うことを請求した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法20条,89条1項3号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 労働者の責に帰すべき事由 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と解雇の効力 |
裁判年月日 | : | 1972年3月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和44年 (ヨ) 2282 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労経速報779号11頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 近藤富士雄・労働判例147号38頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―暴力・暴行・暴言〕 申請人のAに対する暴行行為は、前記認定の事実から明らかなとおり、就業時間中、職場内において、相当数の被申請人従業員や上司の面前で、同僚に対し一方的に加えられたものであり、そのうえAに負わせた傷害の程度も重大であるから、その暴行行為自体が被申請人の社内秩序を著しく害するものであるということができる。このような悪質な暴力行為は、天人ともに許さざる罪悪であって、それ自体就業規則および労働協約にいう懲戒解雇事由に該当するものというべきである。 (中 略) 一般的な解雇制限法を持たないわが国においては、解雇権の行使は、法形式上本来自由である。しかし、解雇権の無制約な行使を自由に認めると、理由もない恣意的な解雇によって労働者の生存権や労働権が脅威にさらされる虞れがある。ここに合理的理由のない解雇は解雇権の濫用であるとして、解雇権の行使を制約しようとする理論が誕生する。したがって、解雇の理由それ自体が合理的なものである限り、解雇権の濫用を入れる余地はないはずである。本件においては、申請人の行為が懲戒解雇事由として十分首肯し得ることは、前記のとおりであるから、申請人の右主張は、この点において既に失当であると考えられるが、以下念のため申請人主張の事実について検討する。 (中 略) 以上のとおり、申請人が解雇権の濫用であるとして主張するところの事由は、いずれも本件解雇をもって権利の濫用であるとするには足りないし、他に右主張を基礎づけるに足りる事実の疎明もない。 六、結論 そうすると、本件懲戒解雇は有効であり、申請人は、昭和四三年一一月二二日限り被申請人会社の従業員としての地位を失ったのである。 〔解雇―解雇予告と除外認定―労働者の責に帰すべき事由〕 労働基準法第二〇条第一項但書によれば、労働者の責に帰すべき事由に基づく場合には、解雇予告手当を支給しなくても即時解雇が許される。そこにいう労働者の責に帰すべき事由とは、当該雇用契約関係の実態に則して考察し、解雇予告または解雇予告手当の支給をしないで即時解雇されてもやむを得ないと考えられる程度に重大な職務義務違反や背信行為等が労働者の側にあり、したがって、使用者に対し解雇予告または解雇予告手当の支払義務を負わせるのが妥当でないと認められる場合をいうものと解すべきである。しかるに申請人は、前認定のような、被申請人の社内秩序を著しく害する行為におよんだものであって、これが労働者の責に帰すべき事由に該当することは明らかであるから、本件解雇には、解雇予告手当の支給を必要としない。 〔解雇―解雇予告と除外認定―除外認定と解雇の効力〕 同条第三項、第一九条第二項によれば、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合であっても、解雇予告手当を支給せずに即時解雇しようとするときは、事前に、その事由について行政官庁(労基法施行規則第七条によれば所轄労働基準監督署長とされている。)の認定を受けなければならないものとされている。しかし、右各法条は、使用者が右のような解雇予告除外事由についての恣意的に判断して解雇しようとするのを制約し、行政官庁において右事由の有無を一応確認することにより、その適正な運用を行政的に監督するために設けられた規定と解されるのであって、行政官庁による解雇予告除外認定の有無は、解雇の効力に影響をおよぼすものとは解されない。したがって、行政官庁による解雇予告除外認定を経ていないからといって、本件解雇の効力を否定することはできない。 |