ID番号 | : | 00612 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 東洋酸素事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 事業部門の閉鎖によって整理解雇された従業員らが、雇用契約上の地位にあること、および賃金仮払の仮処分を申請した事例。(一部認容、一部却下) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の範囲 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件 |
裁判年月日 | : | 1976年4月19日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ヨ) 2426 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例255号59頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金―賃金の範囲〕 債権者らは、それぞれ債務者に対し、右各地位にある期間またはその地位にあった期間その地位に基づいて生じる賃金、一時金その他の労働の対償としての金員の支払いを請求することができるものというべきである。 債務者が昭和四五年の年末から同四九年の年末までの各夏季および年末にその従業員に対し債権者らの主張するとおりの各一時金を支払ったことは、当事者間に争いがなく、そして、これらの事実と、(証拠略)によれば、これらの各一時金も、債権者会社の従業員が債務者に対し労働の対償として支払いを請求しうる金員に属するものと認めることができる。 債務者が従来その従業員に対し債権者ら主張の基準による慶弔金および永年勤続者表彰金を支払ってきたことは、当事者間に争いがなく、この事実と弁論の全趣旨によれば、右の慶弔金および永年勤続者表彰金は、本来的には労働の対償とはいえないが、しかし、これらはいずれも、規則に従い、一定の支払条件のもとに、所定の慶弔または永年勤続という支払原因が生じた従業員に対し例外なく支払われるものであることが一応認められるから、これらは、各従業員の労働の対償としての賃金を補う給付と解すべきであって、賃金に準じて取り扱うのが相当である。そして、(証拠略)によれば、債権者らについては、昭和四五年九月から同四九年一二月までの間に、それぞれ債権者らの主張するとおりの各慶弔金および永年勤続者表彰金の支払いを受けうる原因が生じたことを一応認めることができる。したがって、債権者らは、債務者に対し、債権者ら主張の右各金員の支払いを請求することができるものというべきである。 〔解雇―整理解雇―整理解雇の要件〕 債務者が、本件のごとく特定の事業部門を閉鎖するのに伴ない、「やむを得ない事業の都合によるとき」に該当する事由があるとして、就業規則の右規定に基づき、同部門の従業員を有効に解雇するためには、同部門を閉鎖することが事業の経営上やむをえないものであると同時に、その従業員を解雇することもまた事業の経営上やむをえないものであり、さらに、その解雇の手続が社会通念上首肯すべきものであることを要するものと解すべきである。けだし、およそ解雇は従業員(さらにその家族)の生活に重大な影響を及ぼすものであるから、右規定の定める解雇の要件はこれを厳格に解釈し、当該事業部門の閉鎖およびその従業員の解雇の両者がいずれも事業の経営上やむをえないものであることを要すると解するのが相当であるとともに、右規定に基づく解雇は、通常従業員の側には何ら解雇の原因となるべき事由がないのにかかわらず、債務者側の一方的な都合によって当該従業員の雇用契約上の地位を失わせることになるものであることに鑑み、その解雇の手続自体も社会通念上首肯すべきものであることを要すると解して、その解雇が従業員の生活に及ぼす影響をできるかぎり軽減するように配慮するのが相当であるからである。 (中 略) 債務者がアセチレン部門を閉鎖するに当たり、同部門の従業員の配置転換、希望退職者の募集等の方法を講じて従業員の解雇の回避に努力することなく、直ちに同部門の従業員全員を解雇する措置に出たことは、いまだ債務者会社の事業の経営上やむをえないものであったと解することはできないというべきである。 (中 略) とくに本件においては、債務者がアセチレン部門を閉鎖したこと自体は事業の経営上一応やむをえないものであったということができるものの、債務者が、昭和三八年から同四五年に至るまでの長期間アセチレン部門の赤字経営を続け、結局、同部門を閉鎖してその従業員全員を整理せざるをえない羽目に陥ったことについては、それらの従業員に対し事業の経営者としての責任を免れることはできないというべきであるから、そのような責任のある債務者は、仮に労働協約や就業規則上の従業員の解雇同意約款等がなかったとしても、アセチレン部門を閉鎖するに当たり、事前に、かつ、相当の時間をかけて、同部門の従業員ないしその所属する組合と誠意を尽して交渉し、もって従業員の整理問題を円満に解決するよう努力すべき信義則上の義務をも負っていたものと解すべきであるが、右の(二)および(三)において述べた事実関係に基づいて判断すると、債務者はこのような信義則上の義務を十分に果していないものといわなければならない。 (五)そうすると、債務者のなしたアセチレン部門の従業員の解雇の手続自体も、いまだ社会通念上首肯すべきものであったと解することはできないというべきである。 |