ID番号 | : | 00623 |
事件名 | : | 雇用関係存続確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | あさひ保育園事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 園児の減少、園児定数の削減に伴う余剰人員として、保育園から解雇された保母が、雇用関係存続の確認を求めた事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件 |
裁判年月日 | : | 1978年7月20日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ワ) 439 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例307号20頁 |
審級関係 | : | 上告審/00646/最高一小/昭58.10.27/昭和55年(オ)103号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 1 整理解雇に関する一般論 人員整理が原則として使用者の自由裁量に委ねられていることは異論のないところであるが、他面整理解雇は労働者にとって、自らの責めに帰すべき事由なく、いわば使用者側の一方的都合により、その生計の途を閉ざされる結果を導くものであるから、労働者の生存権を保護する見地に立ち、衡平の観念によれば、使用者の右裁量権にも自ら制約があるものと解され、これを逸脱した場合は解雇権の濫用として当該解雇は無効に帰すると解される。 そこで、具体的に整理解雇に関し如何なる場合が濫用に亘り、無効に帰するのかが問題となる。 まず、人員整理はこれ以外の措置を講じてどうしても企業を維持できない場合の最終的措置とされるべきで、できるだけ人員整理を避けるべく何らの努力もなされないまま、安易に実施された人員整理は濫用に亘るものと解される。それだけ人員整理を実施するには他の措置では間に合わないといった差し迫った必要性を要すると解するのが相当である。 さらに、人員整理が実施される場合においても、まず労働者にとってより打撃の少いと考えられる希望退職を募り、これによってはどうしても目的を達しえない場合に初めて指名解雇の措置を採ることが許されるに至ると解するのが相当である。 つぎに、人員整理就中指名解雇を実施する場合には、使用者は労働者ないし労働組合に対し、人員整理の必要性並びに整理解雇の場合にはその基準の内容等につき納得の得るよう説明を尽すべく、かかる努力をすることが労使間における信義則上要求されるものと解される。かかる説得の努力をなさないまま直ちにした解雇通告などはやはり解雇権の濫用に亘るものと判断される。 (中 略) 原告は、被告がA保育園の措置児の定数を前記のとおり一五〇名から一二〇名に減員したことに関し、その必要もないのに実施したもの、あるいは他保育園への転園を慰留する等の方法で減員をできるだけ避ける努力をなさなかったのであるから解雇の必要性は認め難い旨主張するので、この点につき判断するに、《証拠略》を綜合すれば、B保育所あるいはC保育園は保育園が少なく、幼児を六ないし七キロの遠隔地からA保育園に通園させなければならない父母の不便を解消するのを目的として新設されたものであり、したがって前記のように転園したのはすべて新設保育園の近くに居住する者であったことが認められるのであるから、このためA保育園への通園児の減少することはまことに致し方のないものといわざるを得ない。 したがって右防止策をとることなく人員整理をした被告の所為をもって不当とする原告の主張は採用することはできない。 以上の事実及び判断によれば、被告が二名の保母を人員整理する方針を決めたことは致し方のないものであり、その必要性を否定することはできないものというべきである。 (二)本件解雇に至るまでの経過について 《証拠略》によれば、昭和五一年三月五日に開催された理事会において、前記のとおり保母二名の減員が決議されたと同時に、さらに原告他一名を指名解雇することにより右減員を実施することを決議したこと、右指名解雇の決議がなされた時点から原告に対し解雇の通告がなされた昭和五一年三月二五日まで、原告を含む職員や原告の属していたD労働組合に対して、人員整理のやむなきことにつき説明し、理解と協力を求める努力を一切していないこと、A保育園においては原告を解雇した後ほぼ一年内に二名の保母の退職者があっており、昭和五二年四月にはその補充のため新たに二名の保母を採用している事実が認められ、この認定に反する《証拠略》は採用の限りでなく、他に右認定を覆すに足りる証拠は見出し得ない。 而して右のような退職者があったことよりしても、昭和五一年三月に保母二名の人員整理の方針を決した段階で、何らかの有利な退職条件を付した上で希望退職を募っておれば、この募集に応ずる保母が存在した可能性が充分にあり、仮に結果的にこれがなかったとしても、直ちに最終的措置である指名解雇を実施する前に、まずこれよりも労働者にとって苦痛の少い希望退職募集の措置をとることが是非とも必要であったと解され、かかる経過的措置を採ることなく、前記のとおり人員整理の方針決定と同時に決定され、しかも従業員からみれば、事前に何らの予告も説明もないまま突如として、実施された本件解雇は、労使間の信義則に反し、衡平の見地からも、解雇権の自由裁量の範囲を逸脱した解雇権の濫用に該るものとして、本件解雇は無効のものといわざるを得ない。 |