全 情 報

ID番号 00641
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 赤阪鉄工所事件
争点
事案概要  造船不況から経営危機に陥った被申請人会社が臨時工を一律に整理解雇したため、解雇された申請人が地位保全と賃金支払の仮処分を申請した事例。(一部認容)
参照法条 民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1982年7月16日
裁判所名 静岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ヨ) 58 
裁判結果 認容
出典 時報1059号147頁/タイムズ481号114頁/労働判例392号25頁/労経速報1139号11頁
審級関係
評釈論文 下井隆史・季刊実務民事法1号274頁/和田肇・ジュリスト814号98頁
判決理由  〔解雇―整理解雇―整理解雇の回避努力義務〕
 4 一般に、経済不況、経営不振等による整理解雇は労働者の責に帰すべからざる事由により、企業全体の犠牲として労働者に従業員としての地位を失わせ、その生計の方途を奪うものであるから、その実施に当たっては、企業において人員削減の必要性が客観的に存在するとしても、事前に労働者にとって最大の犠牲を払うこととなる解雇を極力回避するか、ないしは最少限度にとどめるため希望退職者の募集等労働者にとってより犠牲の少ない合理的方法によって人員削減を実施する努力が十分になされる必要があると解すべきである。
 〔解雇―整理解雇―整理解雇基準〕
 ところで、臨時工については、概念的に、企業が経済不況、経営不振に際し人員削減をせざるを得ない場合に、元来期間の定めのない契約により定年に至るまでの雇用を前提として採用された本工に先立ち、整理解雇を含む削減の対象者として選択されることはやむを得ないといえるものの、具体的には、雇用契約の成立、反覆更新の事情を含めた勤続期間、従事すべき作業の内容、時間等臨時工の実態及び企業に対する結び付きの度合、貢献度等の如何によっては、企業に対し前記のような希望退職者の募集等の方法を広くとり、これにより臨時工に対する整理解雇を回避し、若しくはその対象者数を減少せしむべき努力が要求される場合も少なくないといえる。
 (中 略)
 これを具体的に債権者についてみると、債権者はその勤続年数、当初の配属部署及び作業内容、クレーン免許の取得、本工不採用及び配転の経緯、営繕係としての勤務状況からみて、本工と実質的に変りない実態を有していたものということができる。
 3 そこで、本件解雇の合理性について判断するに、本件解雇はいわゆる傭止め(契約の更新拒絶)ではなく、就業規則に基づく解雇であるけれども、それは形式的な期間の定めのあることに根拠を求めて臨時工のほぼ全員を解雇対象者として選択し一律になされたものであって、債務者における以上のような臨時工の実態を無視した方法自体合理性に疑問の残るものであるといわざるを得ない。
 特に、債権者のように、臨時工の中でも本工と実質的に変らない実態を有していた者について、これを一律解雇の対象者に含めるということは、債権者の債務者に対する結び付きの度合ないしは貢献度をまったく無視するものであって、人員整理の方法に本工との差異が著しく、合理性に欠けるきらいを免れない。
 また、債務者における前記のような臨時工の実態及び臨時工の大半を占めるのが四〇才以上の女子であり高齢者も多いという構成からすれば、債務者の経営者に対しては、本件解雇決定の前に、希望退職者を募集して極力解雇を回避する努力あるいは少なくとも臨時工の構成、実態に応じた選別をして解雇対象者を圧縮する努力が要求されるものというべきである。
(中 略)
 従って、前記のような本工との不当な差異に加え、右のような解雇前の努力の欠如を考慮すれば、債権者に対する本件解雇は合理性を欠くものといわざるを得ない。