全 情 報

ID番号 00716
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 荒川車体工業事件
争点
事案概要  職務怠慢、業務上の指示不遵守等を理由に解雇された者が右解雇の効力停止等の仮処分を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
裁判年月日 1962年5月21日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ヨ) 424 
裁判結果
出典 労働民例集13巻3号651頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間―労働時間の概念―タイムカードと始終業時刻〕
 遅刻について、被申請会社外山工場では就業開始時間は就業規則の定めによる午前八時を事実上午前八時一五分に変更し、従業員が右時刻迄に入門して事務所前に備え付けてあるタイムレコーダーを押せば遅刻としない取扱いであるから就業規則による八時間労働の開始は午前八時一五分にタイムレコーダーを押した時とみるべきであって、これにおくれなければ遅刻扱いを受けて問責せらるべきものではない。しかるに被申請会社外山工場では右の如く午前八時一五分迄にタイムレコーダーを押せば就業規則上遅刻扱いとしないとなしながら、作業所遅刻なるものを認め午前八時一〇分に予鈴を鳴らしその時刻迄に作業所内に到達して直ちに作業開始の態勢にあることを要求している。勿論、午前八時一五分にタイムレコーダーを押してもそれより作業所迄に至る時間及び作業服に着換える時間として数分の作業準備期間を要するであろうが、八時間労働の開始の時刻をタイムレコーダーを押した時と定めた以上、それより五分前に作業所に到達することを要求してもこれをもって従業員を拘束することはできず、右時間以前に作業所に到達しなかったことをもって従業員に対し不利益な取扱いをすることはできないものというべきである。したがって前記認定した申請人の出勤時刻のうち午前八時一〇分以降同一五分までに工場ヘ入門した場合には被申請人のいう作業場への遅刻という事態が生じるとしても、これをもって出勤不良勤務不熱心又は職務怠慢の責を負うものではない。
 〔解雇―解雇事由―就業規則所定の解雇事由の意義〕
 被申請人は就業規則中に従業員を解雇し得る場合として第二五条及び第五六条を定めて解雇基準を示しているのであって、しかも本件解雇が懲戒処分中の懲戒解雇をなし得る事由としての第五六条第三号、第四号及び第一五号に該当する事実があるものとして、これを理由として就業規則第三五条の通常解雇に及んだのであるからその理由とする右懲戒解雇事由が存在しない限り解雇すべき事由はないものといわなければならない。本件解雇については前記(一)乃至(三)に述べた如く右にいう懲戒解雇事由が存在しないのであるから、被申請人のなした本件解雇の意思表示は権利の濫用として無効というべきものである。