ID番号 | : | 00718 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 富士通信機製造事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 共産党員であることの経歴を詐称したことが、就業規則に定める重要な経歴詐称として懲戒解雇の対象となるか否かが争われた事例。(否定) 右経歴詐称が労働基準法二〇条但書の解雇予告除外事由にあたるか否かが争われた事例。(否定) |
参照法条 | : | 労働基準法3条,89条1項9号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 労働者の責に帰すべき事由 |
裁判年月日 | : | 1963年6月12日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和37年 (ヨ) 229 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集14巻3号843頁/時報340号45頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 中島正・労働経済旬報553号28頁 |
判決理由 | : | (二)そして使用者の保持する懲戒解雇権を右の如く解すれば、懲戒解雇に値する重大な経歴詐称もしくは不正入社とは、使用者をして労働力の評価ひいてはその組織づけを著しく誤らしめる事実を意味し、且つそれは企業組織に対する危険を排除するため認められるものであって労働契約締結上の信義則違反を理由としてなし得るものではないこと明らかである。 三、ところで思想及び信条に関する事項の秘匿は労働力の評価に重大な関係を有するものであろうか。 元来労働は労働者の人間活動そのものであるから、労働力の評価はその源泉である人そのものに対する価値判断、即ち人格的判断に迄及ばざるを得ず、人格的判断には当然思想及び信条が一つの要素として関連性を有するものである。 然しそうは云っても労働関係は決して全人格的な支配服従の関係ではなく労働力そのものを中心とした関係であるから、労働力評価の面において労働者に対する価値的判断を云々する場合思想及び信条はその価値判断を形成する他の要素例えば知能、性格、教養、技能、健康と云ったものに比べはるかに関連性に乏しく重大な意味を持つものではない。 従って思想及び信条に関する事項の秘匿は、思想及び信条の如何が直接労働の過程即ち、職務の内容とその遂行に影響を及ぼすような特殊の場合を除き、一般的には懲戒解雇に値する程重大な経歴詐称には該当しないと考える。 (中 略) 七、次に労働基準法第二〇条但書による即時解雇の主張について、労働契約の締結が信義に基きなされねばならぬことは云う迄もないが、既に述べたとおり、会社の設定した採用基準そのものが不当であり、たとえ申請人が会社の質問に対し真実を告げず政党及び学外団体所属の事実を秘したとしても、その非は比較的軽微で到底即時解雇に値するものとは云えない。 |