全 情 報

ID番号 00744
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 高知放送事件
争点
事案概要  早朝のニュース放送を二度にわたり寝過ごして放送しなかったとして解雇されたラジオアナウンサーが、右解雇は解雇権濫用に当るとして地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。(控訴棄却、労働者勝訴)
参照法条 民法627条,1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 懲戒解雇事由に基づく普通解雇
裁判年月日 1968年7月16日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 6 
裁判結果
出典 タイムズ225号197頁
審級関係
評釈論文
判決理由  一般に就業規則所定の懲戒理由が存する場合、形式上懲戒処分たる懲戒解雇に処することなく普通解雇に処することは、その実質が懲戒処分であったとしても、必ずしも許されないものではない。けだし、客観的に懲戒解雇を相当とする場合、これを普通解雇に処することは、特段の事由がない限り当該労働者にとって利益にこそなれ不利益をもたらすものではないからである。しかし、一般に就業規則に軽重数段階の懲戒処分の種類が定められている場合において、そのいずれを選択すべきかについては一応使用者の自由な裁量に委されてはいるものの、その恣意的な選択が許されないのと同様に、使用者が実質的には懲戒の趣旨を以て労働者を普通解雇に処する場合においても、それが社会通念上是認し得ない程度に客観的合理性を欠く場合には解雇権の濫用として許されないものと言わねばならない。そして、具体的に如何なる場合に右の解雇権の濫用に当るかは、個別的事案につき当該解雇の動機、目的、被解雇者の行為、情状を総合して判断すべきであるが、解雇(懲戒解雇及び懲戒の目的を以てする普通解雇)が労働者にとって最も重大な制裁であることを考えると、その行使は極めて慎重であるべきであり、当該労働者を是非とも企業外に放逐しなければ到底企業秩序を維持し得ない場合には格別、具体的事情を総合勘案しても右の程度に至らないような場合には、特段の事由がない限り、解雇は客観的合理性を欠くものと言わざるを得ない。
 本件の場合解雇権の濫用に当るか否かについて判断するに、前記認定の事実によれば、本件第一、第二事故は番組の定時放送を使命とする控訴人にとって重大な事故であり、またその職責上定時勤務を厳格に要求されるアナウンサーとして被控訴人の所為は著しく責任感に欠けるものであり、特に二週間内に二度も同様の事故を起し、また第二事故については直ちに事故報告書を提出せず、その後提出した報告書には一部事実を歪曲して記載し、責任を他に転嫁する様な態度がみられたこと等を考慮すると、控訴人が被控訴人を解雇に価すると判断したことは、全く根拠がないものとは言えない。しかし一方、本件事故はいずれも被控訴人の寝すごしと言う過失行為によって発生したものであって被控訴人の悪意ないし故意から出たものではないこと、
 第一事故については直ちに謝罪していること、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りをすべく努力をしていた点が認められること、第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はそれほど長時間とは言えないこと、被控訴人は二五歳の前途ある青年であり、今まで懲戒処分を受けたことがなく、平素の勤務成績も別段悪くはないこと、などの諸事情を総合勘案すると、本件の場合、被控訴人をこの際是非とも企業外に放逐しなければならない客観的必然性は未だ不充分であると言わざるを得ず、結局本件解雇は客観的合理性を欠き解雇権の濫用としてその効力を生じないものと言わなければならない。