ID番号 | : | 00755 |
事件名 | : | 労働契約存在確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 問谷製作所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 社内での政治活動を禁じ、違反を懲戒解雇事由とする就業規則に基づき、ベトナム戦争反対署名運動等を社内で行ったとして懲戒解雇された従業員が、右解雇は思想、信条による差別的取扱いで憲法一一四条、労基法三条等に反し無効であるとして労働契約の存在確認を求めた事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 日本国憲法21条 労働基準法34条3項 民法90条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 解雇(民事) / 解雇事由 / 政治活動・公職選挙活動 |
裁判年月日 | : | 1970年5月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ワ) 9154 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報609号91頁/タイムズ256号170頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―政治活動〕 しかし、この基本的人権も絶対的のものではなく、私人がその自由意思に基づいて特定の私法関係に入り込むことにより、当該私法関係上の義務によって制限を受けるものであり(昭和二六年四月四日最高裁大法廷判決参照)、言論、政治活動の自由も、それが使用者の所有ないし管理に係る施設内においてこれを利用して行われるものである以上、企業利益との調整の面から、一定の制限に服すべきものであることは、当然の理である。労働者は、使用者との労働契約に基づいて労働義務の履行のため使用者の管理に係る施設または構内に立ち入ることを許されているものであって、就業時間中は誠実に労務に従事すべき義務を負うものであるから、使用者の施設管理ないしは企業秩序維持のために行う合理的な指示、命令に服すべき関係にあるものといわなければならない。労働者の企業施設内における政治活動は就業時間の内外を問わず、企業施設の管理を妨げる虞があり、それが就業時間中に行われるときは、当該労働者のみならず他の労働者の労働義務の履行の妨げとなる虞があるばかりか、たとえ休憩時間中に行われるときでも、他の労働者の休憩時間の自由な利用を妨げ、ひいては作業能率の低下を招く虞のあることは、容易に予想し得るところである。したがって、使用者が就業規則によって労働者の企業施設内における政治活動を禁止することは、企業運営上の必要に基づくものであって、社会通念に照し、合理的理由が存するものというべきである。以上の趣旨において、社内における政治活動を禁止した被告会社の就業規則の前記規定は有効であって、憲法第二一条、労働基準法第三四条第三項または民法第九〇条にいう公序に違反した無効のものであるということはできない。また、前記就業規則の規定は、被告会社の全従業員を対象として社内における政治活動を一般的に禁止しているものであって、特定の思想、信条に基づく政治活動だけを禁止している趣旨のものとは解されないから、右規定をもって憲法第一四条、第一九条、労働基準法第三条に違反し、民法第九〇条にいう公序に反するとなす原告の主張は採用できない。 〔解雇―解雇事由―政治活動・公職選挙活動〕 以上認定したところによれば前示就業規則第五九条第三五条第(9)号に触れる政治活動は、主として参院選挙の投票日(昭和四〇年七月四日であることは、公知の事実である。)を控えた五月下旬から六月下旬にかけて職場の同僚らに対し、ベトナム戦争反対署名運動および日韓会談反対のデモへの参加勧誘のほか、日本共産党の政策を宣伝してその支持を求め、また右選挙における特定候補への投票依頼をしたものであって、その個々の行為の態様は、いずれもさほど重大なものではなく、これらの行為によって被告会社の施設管理もしくは企業秩序維持に著しい支障があったものでないことが明らかである。したがって、前記各行為を個別的にみれば、いずれの行為もそれ自体として単独には解雇に値いする程のものとは認められない。 (中 略) しかし、原告が叙上の行為を連続反覆したことについては、或は解雇せられても止むを得ないものと考えられないではないが、原告本人尋問の結果によれば、原告は六月下旬頃、前記(二)の(9)で認定した如くA課長から政治活動禁止の注意を受けるまでは、就業規則上、会社内における政治活動が禁止されていることを了知していなかったことが認められ、《証拠略》の記載は右認定の妨げとなすに足らず、他に右認定を覆えすに足る証拠はないから、この事実を参酌すれば、原告の前記政治活動と前記業務命令違反の行為を総体的に評価しても、原告を諭旨解雇に付することは苛酷に失するものと認めるを相当とする。したがって原告の叙上行為を解雇事由とする本件解雇は重きに失し、解雇権の濫用として無効であるというべきである。 |