全 情 報

ID番号 00773
事件名 仮処分決定に対する即時抗告事件
いわゆる事件名 恵美須工具製作所事件
争点
事案概要  不況を理由とする試用期間中の者に対する整理解雇につき、解雇権の濫用として無効とされた事例。
参照法条 労働基準法21条
民法627条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1973年3月8日
裁判所名 大阪高
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (ラ) 164 
裁判結果 変更 一部認容 一部棄却(確定)
出典 時報702号105頁
審級関係 一審/大阪地/昭47. 4.21/昭和46年(ヨ)3685号
評釈論文
判決理由  以上の事実を一応認めることができる。この事実によれば、相手方は、昭和四六年八月のいわゆるドルショックによる不況のあおりを受けて、次第に業績が低下し、それに対処するための強力な緊縮政策をとらざるをえない状況に追い込まれていたことが認められる。
 しかしながら、不況にともなう企業合理化のための人員整理としての解雇は、必ずしも厳密な意味での最後の手段である必要はないが、少なくとも、解雇された者をも含め一般従業員を納得させるに足りる客観的に相当な理由を要するものと解すべきである。相手方は、人員整理の基準として、まず会社との結び付きの薄い者を先にし、次第に結び付きの濃い者に及ぶのが合理的であるとして、試用期間中の者を第一順位とし、雇員を次順位としたと主張するのであるが、この順位付けは果して合理的であろうか。
 なるほど、会社との結び付きの親疎からいえば、採用されて間のない試用期間中の者が、本雇の者及び定年退職後再雇用されている雇員よりも、仕事に対する習熟度も低く、会社との馴みの薄いものということができる。しかし、一般論としていえば、試用期間中の者は、その期間中に当該企業の仕事に対する能力ないし適格性を試験される地位にあるというだけで、その期間が満了すれば、就業規則または労働協約により、自動的に、あるいは右能力ないし適格性に関する詮衡を経て(《証拠略》によると、相手方の場合は後者であることが認められる)、本雇に採用されるものであって、いわばその企業の将来を担うべき労働力というべきものである。してみると、人員整理の対象に先ず挙げられる者として、試用期間中の者が、定年退職して後一年の契約期間をもって再雇用されている雇員よりも先順位にあると考えることが、必ずしも一般的に合理性があるとはいえない。本件において、試用期間中であった抗告人が、唯一人真先に解雇されたことについては、それ相当の特段の事情を要するというべきである。
 相手方は、抗告人の労働能力または適格性の点からも、抗告人が解雇の対象にされたことは正当であると主張し、《証拠略》には、抗告人が相手方の業務に不向きであったとする部分があるが、《証拠略》によれば、本件解雇の理由は、不況切抜け策にあるのであって、抗告人の不適格をも理由にしているものではないことが一応認められ、また、試用期間中の者は同時に与えられた仕事の見習中の者であって、未熟であることは当然であり、それ以上に抗告人が相手方の業務に不適格であることは、全疎明資料によるも認められない。また、抗告人が職業安定所を通じて採用された者であることも、抗告人を先ず解雇することを正当付ける特段の事由とはしがたい。
 以上の諸事実を総合すると、従業員一六八名中抗告人のみを解雇した本件解雇を相当とする特段の合理的理由の存在は極めて疑わしく、全疎明資料によるも、これを首肯するに足りる事実は認められない。解雇を相当とする客観的事情を一応認めることのできないときは、その解雇は、解雇権の濫用による解雇であると事実上推定すべきものと解するのが相当である。よって、本件解雇は、解雇権の濫用によるものであって、無効であるといわざるをえず、抗告人は、依然として相手方の従業員たる地位を有するものというべきである。