全 情 報

ID番号 00775
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 朝霞和光幼稚園事件
争点
事案概要  幼稚園教諭らが妊娠、出産等を理由に、解雇を通告されたので、教諭としての地位保全賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容)
参照法条 労働基準法65条,66条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 結婚・出産退職制
裁判年月日 1973年3月31日
裁判所名 浦和地
裁判形式 決定
事件番号 昭和48年 (ヨ) 62 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例177号46頁
審級関係
評釈論文
判決理由  申請人X1、同X2に対する解雇事由(被申請人は再雇傭しない等の意思の表明である旨の主張をなすが、それが実質上解雇の意思表示にあたると解すべきであることは前叙のとおりである。以下解雇というのはこの趣旨である)として被申請人が主張するところは、同申請人らの妊娠および出産により幼稚園教諭としての職務の遂行に困難を来たすという点にある。
 2 しかしながら女性である限り妊娠、出産は通常誰でも経験する事柄であり、しかもそれなくしては社会も国家も成り立ち得ない事実である。それ故女性が労働者として受け入れられる場合には、女性が女性であるが故に有する母性としての機能が十分に保護されなければならず、従ってその反面使用者はそれにより蒙る不利益を受忍しなければならない。労働基準法第六六条が、女子労働者に使用者に対して妊娠した場合の軽易な作業への業務の転換及び産前、産後の休業を請求する権利を与え、これに対応して使用者に女子労働者が右請求権を行使した場合に蒙る不利益を受忍する義務を刑罰の担保の下に課しているのも、このためであり、従って、予め女子労働者を解雇することにより、右受忍義務を回避することは、同法第六五条をかいくぐるものとして許されないことに鑑みるときは、女子労働者の妊娠、出産の事実を解雇の事由とすることは、それ相当の合理的理由なしにはなし得ないものといわざるを得ない。被申請人は申請人らの妊娠、出産による経営への多大な圧迫、再就職の容易性を主張するが、以上述べたところからすれば、いずれも妊娠、出産を解雇の事由とすることの合理的理由とは到底なしえないものというべく、あるいは幼稚園教育においては園児と教諭との人間的な結びつきが重視されることから、教諭が休暇をとることにより園児に与える影響には少なからざるものがあるとしても、教諭の出産休暇は予め予測しうることであるので、代替者を出産休暇前につける等の方法をとることによって右弊害を十分防止しうることなどに鑑みれば、幼稚園における教諭としての職務の特質も又、妊娠、出産を解雇の事由とすることの合理的理由とはしがたいものといわなければならない。
 してみれば、申請人X1、同X2に対する本件解雇の意思表示は、何ら合理的な理由なく、あるいは恣意的になされたものというべきであり、解雇権を濫用したものとして無効であるといわざるを得ない。