全 情 報

ID番号 00811
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 東京現像所事件
争点
事案概要  使用者のなした普通解雇の理由である「時間外労働命令拒否」につき、右命令に服する義務はない等として、従業員としての地位の保全を求めた仮処分事件。
参照法条 労働基準法32条,36条,2章
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1979年7月2日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (モ) 1299 
裁判結果 認可(確定)
出典 時報943号108頁/労働判例323号37頁/労経速報1024号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 債務者主張の時間外労働義務の根拠は、いずれも理由がなく、右根拠によっては債権者は債務者会社に対し業務上の必要に基づく時間外労働義務を有しなかったものというべきである。してみれば、債権者が債務者会社の時間外労働命令(即ち、時間外労働の申込)を拒否しても、右拒否は理由の如何にかかわらず労働契約上の債務不履行又は就業規則違反となることはないものであるから、債務者主張の第一の解雇事由、即ち債権者の時間外労働の拒否ないし不協力の点は、債務者主張の事実の存否につき判断をするまでもなく、前示解雇事由には該当しないものというの外ない。
 〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 三六協定の存在は単に使用者が従業員に対し時間外労働をさせても労基法違反にならないという公法上の効果(いわゆる免罰的効力)を生ずるにすぎないから、三六協定の存在より直ちに従業員に業務上の必要に基づく時間外労働をなすべき私法上の義務が発生する訳ではない。右義務が発生するためには、更に他の要件を必要とする。
 (中 略)
 従って、使用者は、業務上の必要に基づき従業員に時間外労働をさせる場合は、前示就業規則の規定があっても、その都度、三六協定の範囲内で、個々の従業員と具体的な日時、場所、仕事の内容及び時間数等を特定して、時間外労働契約を締結することが必要であって、使用者の具体的な時間外労働の申込に対し従業員が明示又は黙示の承諾をした場合においてのみ、従業員は右合意にかかる日時及び時間数等についてだけ時間外労働義務を負うものというべきである。してみれば、この場合、使用者の時間外労働命令は単なる時間外労働の申込にすぎないものというの外ないから、右申込に対し承諾するか否かは個々の従業員が自由にこれを決定し得るところであって、右申込を拒否するにつき相当の理由があること又は右拒否の理由を使用者に告知することを要するものでないことはいうまでもない。