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ID番号 00821
事件名 労働契約存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 上野学園事件
争点
事案概要  使用者がなした通常解雇につき、労働契約の存在の確認等を求めた事例。
参照法条 民法536条2項,627条
労働基準法26条,89条1項3号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金請求権と時効
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1980年3月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ネ) 1800 
昭和52年 (ネ) 1732 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集31巻2号324頁/東高民時報31巻3号57頁/労働判例351号62頁
審級関係 一審/東京地/昭49. 7.16/昭和47年(ワ)9114号
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 労基法二六条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならないと規定しているが、ここにいう休業とは個々の労働者の労務の履行不能の場合もこれに含まれるものと考えられるので、同条の規定は、労働者が民法五三六条二項にいう債権者である使用者の責に帰すべき事由によって就労できなかった場合、即ち不当解雇の場合にもその適用があるものと解すべきである。
 (中 略)
 したがって、控訴人が被控訴人に支払うべき解雇期間中の賃金額から右期間内に被控訴人が他に就職して得た収入額を控除することは、全く許されないわけではなく、右賃金額のうち平均賃金額の六割に達するまでの部分については控除対象とすることが禁止されているが、これを超える部分から右収入額を控除することは許されるものと解すべきである。もっとも、労働基準法二六条の果たすべき前述のような利益調整機能と労働者の生活保障機能の権衡上、賃金から控除し得る償還利益は、その利益の発生した期間が賃金の計算の基礎となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間の賃金から、それとは時期を異にする期間内に得た利益を控除することは、同条が控除を許容する範囲から逸脱し、許されないものというべきである。
 〔賃金―賃金の支払い原則―賃金請求権と時効〕
 本件においては、前記のとおり、控訴人は、解雇を理由に被控訴人との間の雇用関係の存在を争い、被控訴人から控訴人に対して労働契約上の権利の確認請求の訴えが提起されているところ、労働契約上の労働者の権利の中核をなすものは、いうまでもなく賃金請求権であるから、右確認請求の訴えは賃金請求権の行使の一態様とみることができ、その裁判上の請求に準ずるものと認めるのが相当である。したがって、右のように労働契約上の権利の存在について確認訴訟が係属している場合には、右訴訟係属中に右労働契約上の基本的な権利ないし法律関係から定期的に派生する個々の賃金債権の消滅時効は、履行期が到来してもその進行を開始するものではなく、右確認訴訟の判決の確定をまってはじめてその進行を開始するものと解すべきであるから、当審で提起された新訴請求にかかる賃金債権については、時効期間が進行する余地はない。
 〔解雇―解雇事由―勤務成績不良・勤務態度〕
 就業規則一四条二号にいう「勤務成績または能率不良で職務に適しないと認めるとき」とは、それが解雇事由として定められていることを考慮にいれて解釈するときは、当該職員の勤務成績又は能率が不良であることが本人の素質、能力、性格等に基因するもので、その結果、現に就いている特定の職に限らず、被控訴人学園内において転職の可能な他の職をも含めて、これらすべての職について適格性を有しないと認められる場合を意味するものと解すべきであるが、被控訴人に責められるべき点があると認定された被控訴人の行為にしても、これをもって中間管理職たる主任(課長待遇)としての適格性についての消極的判断要素とすることができるかどうかは別問題として、右行為自体に照らし被控訴人には一般事務職員としての適格性すらないとまで断定することは到底不可能である。
 よって、被控訴人の前認定の行為から同人に就業規則一四条二号所定の普通解雇事由があると認めることはできないし、また、右の程度の非違行為があったからといって、就業規則一四条四号所定の普通解雇事由である「その他やむを得ない事由があるとき」に該当するということもできない。」