ID番号 | : | 00839 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 小川建設事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 二重就職を懲戒事由とする就業規則の規定に基づき、勤務時間外にキャバレーで会計係等として就労していた原告が解雇されたため、地位保全と賃金支払の仮処分を求めた事例。(却下) |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 二重就職・兼業・アルバイト |
裁判年月日 | : | 1982年11月19日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ヨ) 2267 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集33巻6号1028頁/労経速報1137号3頁/労働判例397号30頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 菅野和夫・季刊実務民事法4号242頁/盛誠吾・労働判例406号4頁 |
判決理由 | : | 法律で兼業が禁止されている公務員と異り、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがって、同趣旨の債務者就業規則第三一条四項の規定は合理性を有するものである。 債務者就業規則第三一条四項の規定は、前述のとおり従業員が二重就職をするについて当該兼業の職務内容が会社に対する本来の労務提供に支障を与えるものではないか等の判断を会社に委ねる趣旨をも含むものであるから、本件債権者の兼業の職務内容のいかんにかかわらず、債権者が債務者に対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく、無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、債務者に対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうるものである。 そして、本件債権者の兼業の職務内容は、債務者の就業時間とは重複してはいないものの、軽労働とはいえ毎日の勤務時間は六時間に亙りかつ深夜に及ぶものであって、単なる余暇利用のアルバイトの域を越えるものであり、したがって当該兼業が債務者への労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高いものとみるのが社会一般の通念であり、事前に債務者への申告があった場合には当然に債務者の承諾が得られるとは限らないものであったことからして、本件債権者の無断二重就職行為は不問に付して然るべきものとは認められない。 (中 略) これらの事情を総合すれば、債務者が前記債権者の無断二重就職の就業規則違背行為をとらえて懲戒解雇とすべきところを通常解雇にした処置は企業秩序維持のためにやむをえないものであって妥当性を欠くものとはいいがたく、本件解雇当時債権者は既に前記キャバレー「A」への勤務を事実上やめていたとの事情を考慮しても、右解雇が権利濫用により無効であるとは認めることができない。 |