ID番号 | : | 00842 |
事件名 | : | 労働契約確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 猪高学園事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務成績不良等を理由に就業規則に基づき普通解雇された幼稚園従業員が、右就業規則は周知方法が執られておらず無効であり、また右解雇は権利濫用にあたり無効であるとして雇用契約上の地位の確認等求めた事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条,106条 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度 就業規則(民事) / 就業規則の周知 |
裁判年月日 | : | 1983年5月23日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和55年 (ワ) 1801 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | タイムズ498号217頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則―就業規則の周知〕 前記認定事実によれば、被告の就業規則は、その届出当時に被告の職員の意見を聞いたものの、その後、被告の職員に周知させるべき方法が全く執られていなかったのみならず、園に備え置かれたこともなく、そのためA事務長でさえB前理事長の自宅でその原稿を見たのみで、まして被告の職員は、その存在すら認識しうる状態にはなかったのであるから、かかる事実関係を総合すれば、右就業規則は使用者に対しいわゆる周知義務を定めた労働基準法一〇六条一項の規定に明らかに反するものというべきである。しかして右規定の設けられた趣旨は、就業規則がその制定手続の過程において、労働者側の意見を聴取するものの、使用者側が一方的に制定するものであって、法令に反しない限り労働者はこれに拘束されるものであることに鑑み、労働者の権利及び義務をあらかじめ労働者に会得せしめることにより紛争の防止を図るとともに、労働者の申告権の規定と相俟って、就業規則の実施を労働者側より監視させることにあるというべきであるから、同条は単なる取締規定というべきではなく、右趣旨に照らすと、必ずしも同条一項所定の周知方法が執られることまでは要しないが、少なくとも労働者がこれを知ろうと思えば知りうるような状態に置かれていることが就業規則の効力要件であると解するのが相当である。そうとすると、周知方法が全く執られていなかった被告の就業規則は無効といわざるをえない。 〔解雇―解雇事由―勤務成績不良・勤務態度〕 そこで、本件の解雇の予告が解雇権の濫用に該るか否かを判断するに、前記認定のとおり原告の当初の出勤時間は午前一〇時と定められたが、その後、午前九時三〇分、さらに午前九時との指示がなされ、原告がその時間に遅れて出勤したことが時々あったが、遅刻の頻度及びその程度については、本件全証拠によるも明らかではない。また、原告は銀行の預金口座への入金につきA事務長から注意を受けたことがあるが、計算ができないとかあるいは計算能力が普通の者より劣っているということはなく、これらについて特に注意を受けたことはない。さらに、金庫内の現金の盗難事件についても、原告がA事務長の指示を誤解したことによるものであり、また、園長宛に送られて来た金員については園長からその保管を頼まれたものであって、別の取扱いをすべきものと誤解しても無理からぬ点がないではなく、約七万八〇〇〇円の盗難被害額は、少額ではないにしても、さほど多額であるとも言えない。また、原告の高血圧症は、自宅で倒れた時には、かなり重症であったと認められるが、医師の診療を受けて軽快し、一か月間継続して欠勤し休養したのもA事務長の指示によるもので継続して重症であったわけではなく、原告は、同年二月一〇日以降は出勤し就労しているが高血圧症のため事務に支障を来たしたとの事情は、うかがわれない。 右の事情その他前記認定の本件解雇に至る一切の経緯を考慮すると、被告の主張する各事由に基づき原告を解雇するというのは余りに原告に酷であるというべきであって、社会通念上相当なものとして是認することができず、本件解雇予告は解雇権の濫用というべきであり無効と解するのが相当である。 |