ID番号 | : | 00845 |
事件名 | : | 雇用関係確認請求控訴、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 西日本鉄道戸畑自動車営業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 従業員の料金不正領得行為を防止するため組合と協議の上作成された確認書に署名、押印を求められた車掌が、これを拒否したところ出勤禁止処分を受け、続いて諭旨解雇されたため、雇用関係の存在確認等求めた事件の控訴審。(控訴棄却、労働者勝訴) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1984年2月15日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (ネ) 582 昭和58年 (ネ) 42 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | タイムズ538号154頁/労働判例444号59頁/労経速報1218号22頁 |
審級関係 | : | 上告審/03087/最高二小/昭62. 9. 4/昭和59年(オ)553号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―所持品検査〕 そこで、被控訴人の本件確認書への押印拒否が控訴人主張のとおり就業規則六〇条三号所定の「上長の職務上の指示に反抗し、もしくは会社の諸規定、通達などに故意に違反し、または越権専断の行為をしたとき」あるいは同条一五号、五九条三号所定の「正当な理由なく上長の職務上の指示、会社の諸規定、通達などに従わなかったとき」で「その情状が重いとき」に該当するか否かについて判断するに、以下の理由から、これに該当しないと判断するのが相当である。 (中 略) 本件においては、会社側が本件確認書に乗務員の押印を求めるにあたって、随時担当箱や自家用自動車についても所持品検査を行うことがあり得る旨を明らかにしていたことは前認定のとおりであるのに、本件確認書の第一ないし第三項はこの点について全く触れるところがないから、乗務員の側にとってはそのような確認書への押印は会社側のいう随時の強制的所持品検査(所持品検査の拒否は解雇原因である〔成立に争いのない乙第一号証の一就業規則六〇条一四号〕)を甘受することの承認を意味すると考えても無理からぬ事情があったというべきであるばかりでなく、本件確認書第四項は、乗務員が第一ないし第三項に則り自らの責任において厳重な注意を払い勤務中私金を携帯・所持しない義務を負担したことを前提とし、その故に、乗務員が勤務中に乗車賃と区別された金員を携帯又は所持していたときは、よくよく厳密な確証のないかぎりこれを私金とは認めて貰えないこと(すなわち実質的には、乗車賃を不正に領得したか、私金の証明のできない金員を携帯・所持したものとして、諭旨解雇または懲戒解雇の理由ありとの取扱を受くべきこと〔乙第一号証の一就業規則の六〇条一一号、一三号〕)を、その内容とするものであるから、不注意のためにロッカーや自家用自動車内に現金を置き忘れたり落したり(悪意ある他人に現金を入れられたり)しているとき偶々所持品検査を受けこれが発見されたような場合、本件確認書に押印した事実は、懲戒解雇を免れる途を自身の行為によって事実上閉ざしたことになる可能性をもつ関係にもあった、ということができる。 してみれば、かような内容をもつ本件確認書に押印を求められた乗務員として、会社の意のあるところを善解して任意これに応ずるか、その内容に危険を感じてこれを拒否するかは、その自由に委ねられるものといわざるを得ない。 〔解雇―解雇権の濫用〕 そして同号は、同条一号ないし四号に普通解雇事項を掲げたのに次いで、「前各号のほか、やむを得ない必要があるとき」と規定しているから、他の各号との比較からいっても、当然社会観念上解雇を相当とするだけの高度の必要性のあることを解雇の要件としているものと解される。そのことは、現下の社会情勢の下では、一般的に労働者は雇傭されて得る収入をもって殆ど唯一の生活資金としており、一旦解雇されると容易に同程度の職につくことができず生活を脅かされる関係にあることから、就業規則上解雇の事由に特別の限定が存しない場合においても、労働契約における信義則上普通解雇といえども解雇を担当とする事由のない場合には解雇権の濫用として無効となると解されるのと照応する。 そこで、本件について、控訴会社が普通解雇事由として掲げた各事由が解雇を相当とする事由に該当するか否かについて判断するに、これまで判断してきたように、本件確認書については被控訴人にはこれに押印すべき義務はなく、押印を拒否したことをもって普通解雇を相当とする事由ということはできず、また、その他の規律違反行為についても、前記認定した事実によれば、いまだ普通解雇を相当とする事由とは認められず、他に本件普通解雇を相当とする事由を認めるべき証拠もない。 しからば、本件普通解雇は解雇権の濫用であり無効というべきであって、被控訴人の反論は理由があり、控訴人の予備的主張は理由がない。 |